起業家のピッチに情熱は不要。出資してもらえなくなる

ビジネスを題材としたドラマなどで、若い起業家が投資家の前で、熱い思いをぶちまけて出資してもらうシーンがあったりします。

こういったものに、影響されてしまうのか、現実世界でも役者ばりに演技がかった、ピッチをして情熱をアピールしようとしてしまう起業家も少なくありません。

しかし、ドラマのように上手くはいかないようです。

それどころか、情熱をアピールすると、出資してもらえる可能性が下がるかもしれません。

エンジェル投資家は起業家の情熱を評価するのか

起業家の示す「情熱」が投資家にどのような影響を与えるのかを調べた、クイーンズランド大学のメリッサ・S・カードン教授らの研究があります。

この研究では、150人のエンジェル投資家を対象に、オンライン調査が実施されました。

具体的には、投資家が起業家の情熱をどの程度重要視しているのか、情熱をどのように定義しているのか、さらに情熱が投資の判断にどのような影響を及ぼすのかについて質問がされました。

加えて、情熱の高い起業家と低い起業家を区別するために、投資家が注目する具体的な行動や態度についても回答を求めました。

これらの質問に対し、エンジェル投資家たちは、自分の考えや、具体的なエピソードなどを回答しました。

起業家の情熱は投資判断に影響する

回答を分析したところ、多くのエンジェル投資家が、起業家の情熱を重要な投資判断基準の一つと考えていることが分かりました。

投資家は、情熱を起業家の「本気度」や「持続力」の象徴と捉えており、強い情熱を持つ起業家ほど、事業の成功に向けて粘り強く取り組む可能性が高いと考えていました。

また、多くの投資家が「スタートアップには予測不可能な困難がつきものであり、強い情熱がなければ乗り越えられない」と指摘しています。

さらに、起業家の情熱には、チームのモチベーションを高めたり、投資家や顧客を引きつけたりする効果があると考えられています。

特に、「情熱的な起業家は、周囲の人を巻き込む力がある」という意見が多く、実際にエンジェル投資家自身がその情熱に感化され、投資を決めたケースも報告されています。

起業家の情熱は投資判断に影響する

一方で、「情熱だけでは成功しない」という慎重な意見も見られました。

多くの投資家が、「熱意があってもビジネスモデルが弱ければ意味がない」と指摘し、情熱だけではなく、事業の実現可能性や市場の成長性を慎重に評価する必要があると考えていました。

さらに、一部の投資家は、起業家の情熱が過度に強すぎると、かえって投資判断を誤らせる可能性があると警鐘を鳴らしていました。

たとえば、「過剰な情熱は冷静な経営判断を妨げる」との指摘があり、投資家の中には「起業家が自分のアイデアに過度に執着しすぎると、現実的な市場のニーズを無視するリスクがある」と懸念する意見もありました。

出資を得られた起業家のピッチの特徴

投資家は「情熱」よりも何を重視するのでしょうか?

今回の研究では、もう一つの調査を行っています。

こちらの研究では、米国最大級のエンジェル投資グループの一つである「Teach Coast Angels(TCA)」において、実際に起業家が行ったピッチの動画を分析しています。

起業家がピッチ中に、どれくらい情熱的なアピールをしているかを、特定の基準を設けて評価したのです。

分析の結果、まず、分かったことは、起業家の情熱的なアピールが、出資の可能性を高めることはないということです。

それどころか、事前審査の段階では、情熱が逆効果となり、次のステップに進める可能性を下げることさえありました。

では起業家のピッチにおいて、何がプラスの要因となったのでしょうか?

具体的には以下のようなポイントでした。

  • 商品やサービスの内容の説明がを明確
  • 説明内容に一貫性があり論理的
  • 主張を裏付ける事実の提示
  • 問題解決に対する高い関心
  • 自分の見解を主張するだけではない柔軟な姿勢

ピッチの中で、上記のような特徴が見られた起業家は、出資を得られる確率が高い傾向にありました。

なぜピッチで情熱をアピールすると逆効果になるのか?

過度な情熱アピールが信頼性を低下させる理由はいくつかあります。

まず、エンジェル投資家は多くのピッチを経験していることから、起業家の情熱アピールがただの演技であるケースが多いことを知っています。

そのため、「胡散臭いビジネスであることを隠すために、勢いで誤魔化そうとしているのではないか?」と疑念を抱く可能性が高くなってしまうのです。

また、情熱を強く表現しすぎると、実際のビジネスモデルや市場分析よりも感情的なアピールに頼っているように見えるため、論理的な判断力に欠けると捉えられる可能性があります。

さらに、情熱が強すぎると、起業家が柔軟性を欠いていると判断されることもあります。事業の成功には、市場の変化に適応し、投資家の助言を受け入れる姿勢が求められます。

しかし、情熱を前面に押し出しすぎる起業家は、自分のビジョンに固執し、他者の意見を受け入れにくいと見なされることがあります。

投資家は、こうした起業家に対して「協力関係を築きにくい」「適切な軌道修正ができないのではないか」と不安を抱くのです。

これらの理由から、過度な情熱は起業家の信頼性を低下させ、投資家の評価を下げる要因となってしまうということです。

ピッチの際は熱くなり過ぎないように気を付けましょう。

参考文献:Melissa S. Cardon , Richard Sudek, Cheryl Mitteness. (2009). The impact of perceived entrepreneurial passion on angel investing.