あなたの会社の広告には、モデルがカメラ目線でこちらを見つめている写真が使われていませんか?
実は、広告画像に写る人物の「視線の向き」という、極めて小さなビジュアル要素が、消費者の感情や行動に大きな影響を与えることが、近年の研究で明らかになっています。
視線ひとつで、広告の効果が変わり、クリック率や購入数までもが変動するのです。
今回は、視線の違いがどのように広告効果に影響するのか、最新の科学的知見をもとに解説します。
また、「感情を訴求する広告」と「情報を訴求する広告」で異なる広告戦略についても説明します。
「見つめる」or「視線を逸らす」どっちの広告画像が売れるかの実験
ヒューストン大学の研究者らによる、Facebook広告を用いた実証実験があります。
この実験は、アパレル系のオンライン小売業者と連携して実施されたもので、同じ帽子を被った女性モデルの写真を使用し、視線の方向だけが異なる2種類の広告を作成しました。
1つは女性モデルがカメラを見つめる「正対した視線」の広告、もう1つは斜め下を向いている「逸らした視線」の広告です。その他の要素(商品、構図、文言など)は統一されています。
この2つの広告はFacebookの配信先をターゲティングする機能を用いて、18~34歳の女性ユーザーに対して1週間ランダムに配信されました。
広告をクリックすると、商品の詳細が掲載されたFacebookページに遷移し、購入希望者はメッセージ機能を通じて直接注文できる仕組みになっていました。
広告配信期間が終了し、購買データを分析したところ、逸らした視線の広告は正対した視線の広告と比べて、1日あたりのクリック数が有意に多く(平均866.75件vs.837.25件)、実際の購入数も有意に多い(平均16.25件vs.12.50件)ことが明らかになりました。
つまり、広告モデルが視線を逸らしているだけで、ユーザーの関心を引きやすくし、購買意欲まで高めることが、実際のデータで示されたのです。
ビジュアルは同じでも「目の向き」だけでこれほど大きな差が生まれるというのは、広告設計において極めて重要な示唆だと言えます。
なぜモデルが視線を逸らした画像のほうが売れるのか?
なぜ、モデルが視線を逸らした画像のほうが、広告効果が高いのでしょうか?
その理由は「没入感」にあります。
今回の研究では、「広告モデルの視線が、広告を見る人の感じ方にどう影響するのか?」を調べるための実験も行っています。
この実験では参加者に、新しい時計ブランドの広告を見てもらうという設定で、次の3つのうちどれか1つの広告を見せました。
- 正対した視線(モデルがこちらを見ている)
- 逸らした視線(デルがどこか他の方向を見ている)
- 目が写っていない(鼻から下の顔半分が写っている)
それ以外の要素(モデルの服や背景など)はすべて同じです。
広告を見た後の参加者に、「この広告にどれくらい好印象を持ったか」と「広告の世界に入り込んだように感じたか(=没入感)」を聞き取りました。
その結果、モデルが目を逸らしている広告を見た人たちは、他の2つの広告を見た人たちよりも「広告の世界に入り込んだ」と感じやすく、広告に対する印象も良いことがわかりました。
さらに詳しくデータを分析したところ、「広告に入り込んだ感覚」が強くなるほど、広告への好印象を持ちやすくなることも分かりました。
つまり、モデルがどこか遠くを見ていると、見る側はその広告の世界に自分を重ねやすくなり、その結果として広告がより魅力的に感じられるということです。
情報を訴求したい広告では正対した視線の広告が有効
ということで、広告モデルの視線は逸らしておいたほうが良い、と言いたいところですが、必ずしもそうとは限りません。
訴求したい内容によっては、視線を合わせておいたほうが良いパターンがあることも、実験から分かっているのです。
こちらの実験では、旅先のカフェを紹介する広告を参加者に評価してもらっています。
このとき、広告画像には以下の2パターンのどちらかの説明文が掲載されました。
- 感情を訴求する説明文(例:温かいスタッフがいる、第二の我が家のようなカフェです)
- 情報を訴求する説明文(例:熟練したバリスタが最高品質のコーヒーを淹れてくれます)
そして画像に写る人物の写真も、正対した視線と逸らした視線の2パターンを用意しました。
これらの広告に対する参加者の評価を分析したところ、感情を訴求する説明文がある広告では、逸らした視線のほうが好印象を持たれやすいことが分かりました。
一方で、情報を訴求する説明文のある広告では、正対した視線のほうが好印象を持たれやすいという結果となりました。
これは、正対した視線が「誠実さ」や「知識のある専門家」といった印象を生みやすいためです。
そのため、「情報」にフォーカスした説明文では「信頼できる発信者からのメッセージである」と認識され、好印象を持たれやすくするということです。
これらの効果を踏まえると、コスメやファッションなどの広告では「逸らした視線」で没入感を高め、医薬品やテクノロジー製品では「正対した視線」でモデルの信頼性を強調することが、有効といえるかもしれません。
とはいえ、会社や商品のイメージによっても消費者の反応は変わりますから、ABテストを繰り返しながら効果測定を行い、自社にあった出稿パターンを見つけることが大切です。
参考文献:Rita Ngoc To, Vanessa M Patrick. (2021). How the Eyes Connect to the Heart: The Influence of Eye Gaze Direction on Advertising Effectiveness.