起業家に必要な能力は感情知能(EI)だった!イノベーションと成功に相関する要因

起業家に必要な能力として、資金調達やマネジメント、マーケティングに関するものが注目されがちです。

しかし、それらを根本的に支える、もっと重要な能力があるのをご存じでしょうか?

それは「感情知能」です。

この感情知能の高さが、起業家としての成功と相関していることが研究から分かっています。

感情知能(EI)とは何か?

感情知能とは、自分自身や他者の感情を正しく理解し、適切にコントロールする能力を指します。感情的知性などといわれることもあります。

英語ではEmotional Intelligence(EI)と呼ばれ、知能指数(IQ)とは異なる概念です。

知能指数が論理的思考力や学力を表すのに対し、感情知能は対人関係や自己管理、リーダーシップに深く関わります。

ビジネスの現場では、感情知能が高い人ほど、ストレスの多い状況でも冷静に判断を下し、周囲と良好な関係を築けるとされています。

つまり、起業家が組織をまとめ、顧客や投資家を巻き込み、革新的な挑戦を進めるための土台となる能力なのです。

感情知能の4つの構成要素

感情知能は大きく4つの要素に分けられます。

(1)自己感情評価

自己感情評価とは、自分の感情を理解し、自然に表現する力です。起業家は意思決定や人前で話す場面が多いため、自分の感情状態を客観的に把握できることで、過剰な不安や緊張を和らげ、自信をもって行動できます。

(2)他者感情評価

他者感情評価は、周囲の人々の感情を感じ取り、理解する能力です。チームメンバーや取引先、顧客が今何を感じているかを察知できれば、最適なコミュニケーションや提案が可能になります。これにより信頼関係が深まり、ビジネスチャンスも広がります。

(3)感情調整

感情調整は、自分や他人の怒りや不安といった感情をコントロールし、心理的ダメージから早期に回復する力です。起業の過程では失敗や批判を受ける場面も多いため、感情調整能力が高い人ほど粘り強く挑戦し続けられます。

(4)感情活用

感情活用とは、自分の感情をモチベーションに変え、行動につなげる力です。ワクワク感や達成感をうまく活用できると、困難なタスクでも前向きに取り組め、チームにも活気をもたらします。

感情知能とイノベーション、起業家としての成功

若手起業家を対象とした調査(Ngah & Salleh, 2015)によると、感情知能が高いほどイノベーションを起こしやすく、その結果として経営する企業の成功確率も高いことが分かっています。

この調査では、起業家の感情知能と、イノベーションの源泉となる革新性、財務パフォーマンスなどの企業の成功度合いを確認しているのですが、その中でも「感情調整(自分や他人の感情をうまく調節する力)」が革新性と起業家としての成功に強く関係していました。

これは、感情調整の能力が高い起業家は、相手に安心感や信頼感を与えることができるので、円滑なコミュニケーションが可能になることが要因といえます。

その結果、顧客から本音や潜在的ニーズを引き出し、新しいアイデアやサービスの発想につなげることができるのです。

また、チーム内の衝突や不安を和らげることで、メンバーが安心して意見を出し合える環境が生まれ、革新性が高まり、事業の成功にも結びつくと考えられます。

感情知能を高めるための具体的方法

感情知能は生まれ持ったものだけでなく、日々のトレーニングで高められる能力です。ここでは、起業家として実践しやすく、日常に取り入れやすい方法を紹介します。

(1)自己認識トレーニング

まず、自分の感情に気づく習慣を持ちましょう。日記や感情ログをつけることで、「どんな状況で自分は不安になるのか」「どの瞬間にモチベーションが上がるのか」など、感情のパターンを理解できます。夜寝る前にその日感じた感情と出来事を3つ書き出すだけでも効果的です。

また、感情の強さを10段階で評価することで、自分がどの程度感情に影響されているかを客観的に把握できます。こうした習慣を続けることで、ネガティブ感情に振り回されることが減り、自己理解が深まります。

(2)感情調整力を鍛える習慣

呼吸法やマインドフルネス瞑想は、感情調整力向上にとても効果的です。例えば重要な商談前やプレゼン直前に、ゆっくり4秒吸って4秒止め、8秒かけて吐く「4-4-8呼吸法」を数回繰り返すと、自律神経が整い、心拍数を落ち着けることができます。

さらに、短時間のマインドフルネス瞑想(1~3分でもOK)を習慣化すると、集中力と感情調整力の両方が高まり、突発的なトラブルにも冷静に対応できるようになります。

(3)共感力を高めるコミュニケーション法

相手の話を聞く際には、話の内容だけでなく、相手の表情や声のトーン、姿勢など非言語情報に注意を払いましょう。例えば、「声がいつもより小さい」「語尾が弱い」といった変化に気づければ、相手の不安や戸惑いを察することができます。

また、相手の感情を言葉にして返す「感情のリフレクション」も非常に有効です。「それは大変でしたね」といった感情に寄り添った言葉を加えるということです。ただし、わざとらしくならないように注意しましょう。関係性にもよりますが「それムカつきますよね~」といった軽い感じのほうが、相手は「わかってくれた」と感じ、信頼関係が深まることもあります。これは、チームマネジメントや顧客対応にもすぐ活かせるテクニックです。

(4)感情をモチベーションに変える

ポジティブな感情を意識的に活用することも重要です。成功体験や過去にうまくいった事例を思い出し、「自分ならできる」という自己効力感を高めましょう。商談前に「以前この規模の案件を成約できた」という経験を思い出すことで自信が湧きます。

また、日々のタスクでも、達成したら自分を褒める、好きなカフェでコーヒーを飲むなど小さなご褒美を設定すると、ポジティブな感情が強化されます。このように小さな達成を積み重ねることで、困難な挑戦にも立ち向かえるエネルギーを維持できるのです。

AIに代替できない「人間らしさ」が競争優位の源泉となる

起業家として事業を成長させ続けるためには、最新のマーケティング戦略やテクノロジーを学ぶことも大切ですが、それ以上に重要なのが、自分自身の感情や周囲の人々の感情に向き合う力です。

感情知能を高めることは、ただ人間関係を良くするためだけではなく、起業家自身がメンタルの安定を保ち、持続的に挑戦し続けるための土台となります。

どれだけ優れたアイデアがあっても、どれだけ頭の回転が速くても、感情のコントロールや相手への共感がなければ、チームを導き、顧客の心を動かし、イノベーションを起こすことはできません。

これからの時代は、AIやデジタルツールでは代替できない「人間らしさ」が競争優位の源泉になります。

感情知能を高めることは、起業家にとって最も確実で持続可能な自己投資といえます。

今日この瞬間から、あなた自身の感情と、周囲の小さな変化に気づくことから始めてみてください。それが、成功への一歩となるはずです。

参考文献:Rohana Ngah, Zarina Salleh. (2015). Emotional Intelligence and Entrepreneurs’innovativeness towards Entrepreneurial Success: A Preliminary Study.