スターバックスコーヒージャパン株式会社が2026年2月18日から、全体の約7割にあたる店舗で一部メニューを値上げすると発表しました。
また、これまで無料提供していたショッピングバッグ(テイクアウト時に使う紙袋)も有料化するそうです。
一般に飲食店は価格弾力性が高いとされています。つまり値上げをすると顧客が離れやすくなるということです。
特にカフェは、コンビニコーヒー、自販機、ファストフード、家で淹れるコーヒーなど代替品が豊富なため、数十円の値上げでも影響は大きくなります。
しかし、スタバではこうした顧客離れは起こりにくいといえるでしょう。
これには受け入れられやすい値上げ方法をしていることの他に、スタバならではの理由があります。
値上げが受け入れられやすい条件
同じ金額を値上げしても、その方法によって顧客の納得感は変わります。
値上げを納得してもらうためには、それが正当な理由に基づくものだと理解してもらわなければなりません。
原材料費や人件費の高騰、あるいはフェアトレードや従業員待遇改善といった社会的に望ましい目的に基づく値上げは、「仕方がない」「むしろ支持できる」と受け取られやすくなります。
反対に、需要が高いから、利益を増やしたいからという動機が透けて見えると、悪い印象を持たれやすくなります。
正当な理由に加え、それを透明性をもって説明をすることも必要です。値上げ後に気づかせるのではなく、事前に店側から理由や背景を伝えなければなりません。どの部分のコストがどのように変化したのかを分かりやすく示すことで、顧客は価格決定のプロセスそのものを「公正だ」と感じやすくなるのです。
もちろん、値上げの仕方そのものも重要です。顧客の中には「このくらいが妥当だ」という参照価格が形成されていますが、それを大幅に超えるような値上げは強い反発を招きます。
小幅で段階的な値上げや、品質改善や付加価値の向上と同時に行う値上げは、参照価格が更新されやすく、受け入れられやすいことが行動経済学の研究からも分かっています。
スタバならではの強みが値上げの悪影響を最小限にする
今回のスタバの値上げは上記の手順を順当に踏んでいるといえます。ですから顧客離れは起こりにくいといえるでしょう。
しかし、仮にもう少し大きく値上げしたとしてもスタバの顧客はそれほど減らないと思います。
なぜなら、スタバの顧客はブランド・ロイヤリティが高いからです。ブランド・ロイヤリティとはそのブランドに対する愛着や忠誠心のことです。
ブランド・ロイヤリティが高いということは、顧客は価格以外の価値を強く認識しているということです。
品質の安定性や信頼感、これまでの良い体験を通じて形成された安心感を持っており、ブランドに対し単なる商品やサービスを提供する存在以上のものという感覚を持っているのです。
そのため、多少価格が上がっても「このブランドなら納得できる」「他に替えがきかない」と感じ、離れていかないのです。
スタバはただコーヒー提供するだけではなく、体験全体を「価値」として設計しています。
店舗の空間づくりや接客品質を通じて心地良さを提供し、日常に溶け込む存在になっています。また、味や品質の安定性により、どの店舗でも同じ満足感が得られることが信頼につながっています。
さらに、カスタマイズの自由度やリワードプログラムによって、顧客一人ひとりが関係性を感じやすい設計となっています。
こうした「体験の設計」によってブランド・ロイヤリティを高め続けているおかげで、値上げによるマイナスの影響を最小限に抑えることができているのです。
ドヤリングはスタバの戦略の効果
10年以上前に「ドヤリング」という言葉が流行しました。スタバでMacBook Airを開いてドヤ顔で仕事をする意識高い系を揶揄したスラングです。
冷静に考えればMacBook Airは上位機種ではありませんし、カフェで出来るような仕事というのは情報流出のリスクなども考えると大したレベルの仕事ではないですから、ドヤ顔するのは滑稽なことでしょう。
しかし、ドヤリングしている人たちは、そんな自分を誇らしく思っているのです。
これこそスタバが上手に設計してきた「場」のなせる業です。ドヤリングする人にとってスタバはコーヒーを飲む場所ではなく、自分を表現する場所なのです。
もともとスタバは家と会社に次ぐ第三の場所(サードプレイス)を提供するという、「場」を意識した戦略を取っていますから、狙い通りの反応といえるでしょう。
ドヤリングする人に限らず、スタバという「場」に特別感を抱いている顧客は少なくありません。自分の生活の一部になっているともいえます。無意識に一体感を得ているのです。
このような、顧客とブランドの一体感は値上げによる価格弾力性を低下させるどころか、応援の気持ちさえ芽生えさせます。
たとえば紙袋の有料化にしても、それによって紙の使用料を減らすことで環境保全に役立つのだから、積極的にお金を取っていくべきと肯定的に評価してくれるのです。
なぜなら一体化している顧客にとって、スタバの環境保全の取り組みを応援することは、自分自身が良いことをしているという感覚を得られる行動だからです。
このように、スタバは戦略的に顧客との関係を設計してきたおかげで、値上げによる悪影響を最小限に抑えられる状態を作ってきたのです。
値上げできずに悩んでいる中小企業の経営者の方は、ぜひ参考にしてみてください。

