企業経営において、どのような戦略を選ぶかは業績を左右する重要な決断事項です。
中でもよく知られているのが、「差別化戦略」と「コストリーダーシップ戦略」という二つです。
商品やサービスに独自の価値を持たせて競争するか、それとも低価格で市場を攻略するか。この判断は、今の売上だけでなく、将来の利益の安定性にも大きな影響を与えます。
では、どちらの戦略がより有利なのでしょうか?
この記事では、1万2,000件を超える企業データを使った研究をもとに、解説していきます。
2つの戦略、基本的な違い
まず、基本的な戦略の違いを確認しておきましょう。
1.コストリーダーシップ戦略
コストリーダーシップ戦略とは、徹底した効率化によって商品やサービスのコストを削減し、それを低価格で提供することによって市場での競争力を得る戦略です。
大量生産や自動化、サプライチェーンの最適化などによりコストを抑え、より安価な価格設定を可能にします。
この戦略は、価格に敏感な消費者層を対象にしており、特に競争が激しい市場や成熟産業において有効です。低価格を武器にした量販店やファストファッション企業などが該当します。
2.差別化戦略
一方で、差別化戦略は、競合他社にはない独自の価値を提供することによって顧客から選ばれることを目指す戦略です。
ここでいう「独自の価値」とは、製品やサービスの品質、デザイン性、機能、ブランドイメージ、顧客対応など、価格以外の部分で他社と差をつける要素のことです。
Appleのようにデザイン性とブランド力で高価格帯でも選ばれる商品を展開する企業がその代表です。
顧客は「高くてもこれが欲しい」と思うため、企業は価格競争に巻き込まれにくくなります。
コストリーダーシップ戦略 vs. 差別化戦略
コストリーダーシップ戦略も、差別化戦略も広く使われており、それぞれに成功例があります。
しかし、それぞれの戦略がもたらす利益の性質や、その持続性には違いがあります。では、長期的に見て本当に儲かるのはどちらなのでしょうか?
この疑問に答えるために、テンプル大学のラジブ・バンクス教授らのグループが、12,849件の企業年次データを用いて分析を行いました。
まず、各企業がどちらの戦略を選んでいたかを、財務データから数値的に判断しました。
具体的には、広告宣伝費や研究開発費、売上高に対する販管費の割合、売上と設備投資の関係、従業員数と資産の比率などをもとに「差別化戦略」か「コストリーダーシップ戦略」のどちらを採用しえいるのかを判断したのです。
このようにして戦略の傾向を測ったあと、現在の利益が5年後までどのように続いていくかを調べました。
当期の利益が次の年、その次の年にどれくらい維持されるかをモデルで計算し、戦略によってその持続性に差があるかを検証しました。
さらに、利益が安定しているかどうか、つまり業績がどれだけ変動するかも分析の対象としました。
どちらの戦略でも短期的な利益は出やすい
結果は明確でした。どちらの戦略でも短期的には利益を出しやすいことがわかりました。
ただし、差が出たのは「その利益が続くかどうか」という点です。
差別化戦略をとっている企業は、5年後まで利益を安定的に維持している傾向が強いことが確認されました。
一方で、コスト重視の企業は、最初の1年こそ利益を維持できる傾向が見られましたが、その後は持続性が弱くなる傾向がありました。
戦略ごとの「真似されやすさ」が影響する
このような結果になったのは、戦略ごとの「真似されやすさ」の違いが大きな理由です。
コストリーダーシップ戦略は、効率的な仕組みや低価格で勝負しますが、こうした工夫は他社に真似されやすいものです。そのため、最初は利益が出ても、すぐに競争が激しくなり、長くは続きにくくなります。
一方で、差別化戦略は、独自のブランド力、サービス、技術、デザインなど、企業ごとの強みに基づいています。こうした要素は他社がすぐに真似するのが難しいものです。そのため、競争優位を長く保ちやすく、利益も長く続く傾向があります。
こうした特徴の違いが、利益の持続性に差が出る要因です。
差別化戦略のリスク
ただし、差別化戦略にはリスクも伴います。
この戦略を選んだ企業は、利益が長期的に持続する傾向がある一方で、その収益が年によって大きく変動するケースも多く見られました。つまり、安定的に儲かる企業もある一方で、業績が大きく上下するリスクを抱えているということです。
この理由のひとつとして、差別化戦略をとる企業は、研究開発やブランド構築などの投資に力を入れる傾向があります。
こうした投資は他社にまねされにくい反面、成果が出るまでに時間がかかり、しかも結果が不確実です。たとえば、新商品が思ったように売れなかったり、技術開発が失敗に終わることもあります。
また、顧客に独自性を感じてもらうためには、サービスの質や顧客対応など、人材への依存も高くなります。こうした要素は目に見えにくく、コントロールが難しいため、収益のブレにつながりやすいのです。
このように、差別化戦略は長期的な利益の持続という面では有利ですが、同時に「高リターン・高リスク」の戦略であるとも言えます。
持続的な競争力の向上を念頭に戦略を策定する
企業において、それぞれの戦略を取る際には、何に注意しておけば良いのでしょうか?
コストリーダーシップ戦略を取る場合には、競合に模倣されやすい点を意識する必要があります。単に価格を下げるだけでは長く続けられません。
製造プロセスの自動化や、サプライチェーンの最適化など、他社がすぐに真似できない領域での改善を積み重ねる必要があります。
また、コスト削減だけでなく、アフターサービスや納期対応など、小さな差別化要素を加えることで競争力を強化できます。価格と品質の両立を目指すことが、長期的には安定した利益につながります。
一方で、差別化戦略を選ぶ場合は、利益の変動リスクを前提に行動する必要があります。
特に研究開発やブランド投資は成果が出るまでに時間がかかります。そのため、資金繰りには余裕を持たせ、短期の収益に頼りすぎない経営が求められます。
新製品が売れなかった場合でも他の製品群で支えられるよう、開発案件を分散することが重要です。
ブランド構築においては、広告だけでなく、SNS運用や既存顧客の満足度向上など、複数の施策を組み合わせると安定性が高まります。
また、差別化の要因が特定の社員や属人的な営業力に依存している場合は、業務をマニュアル化したり、ナレッジをチームで共有する体制を整えるとよいでしょう。
いずれの戦略でも、自社の強みと市場環境を冷静に分析し、持続的な競争力をどのように築くかを考えることが欠かせません。
- D. Banker, R., Mashruwala, R. and Tripathy, A. (2014).Does a differentiation strategy lead to more sustainable financial performance than a cost leadership strategy?

