女性起業家は銀行融資の審査が通りにくく、借りられたとしても高い金利を設定される傾向にあるようです。
その理由は「女性はビジネスで成功しない」というステレオタイプと、男性が持つ「女性に地位を奪われたくない」という恐れにあるのだとか。
ルレオ工科大学のマリン・マルムストローム教授らが、過去に行われた「女性起業家と銀行融資」に関する31件の調査データを集め、統計的な分析を行っています。
対象となったデータは世界中のさまざまな国や地域から集められたもので、女性起業家と男性起業家が融資を受ける際にどのような違いがあるのかを調べています。
分析の結果、以下のような性別間の格差が確認されました。
女性起業家は融資を拒否される可能性が高い
女性起業家は男性起業家と比べて、銀行に融資を申請した際に却下される割合が高いという結果が出ました。
この差は女性起業家が提出する事業計画の質やビジネス経験の有無とは関係なく、性別による偏見が主な要因だと考えられます。
特に保守的な価値観が強く伝統的な性別役割を重視するエリアにおいてこの傾向が顕著に現れていました。
保守的な社会では男性が「主な稼ぎ手」として認識され、女性が事業を行うこと自体が想定外とされる場合があります。
このため、女性起業家が融資の申込をしても「事業の継続性に疑問がある」「返済能力が低いと見積もれる」といった理由で却下される可能性が高まります。
また、地域ごとの差も一定程度見られましたが、経済的に発展した国であっても保守的な政治的・社会的価値観が強い場合には女性起業家の融資拒否率が特に高いことが確認されています。
これは経済発展の度合いにかかわらず、社会の根深い偏見が銀行の判断に影響を与えていることを示しています。
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女性起業家は高い金利を課される
女性起業家が融資を受けられた場合でも、男性起業家よりも高い金利を課される傾向が見られました。
銀行は融資を行う際にリスクを考慮しますが、女性起業家に対しては不当に高いリスクを見積もるケースが多いことが判明しています。
これにより、女性起業家は男性起業家に比べて同じ額の融資を受ける際に、より多くの利息を支払う必要があり、資金調達コストが高くなるという不利を抱える結果となっています。
特に保守的な政治的イデオロギーが強い国ではこの金利差がより顕著に現れており、同じ条件で融資を受けた場合でも、女性起業家の方が男性起業家よりも高い金利を課されていることが確認されました。
これには「女性起業家はビジネスにおいて男性よりも成功する確率が低い」といった偏見が影響していると考えられます。
このようなアンコンシャス・バイアス（無意識の偏見）によって、女性は男性よりも高いリスクを伴う存在とみなされ、結果的に金利が引き上げられてしまうのです。
女性の社会進出が進んでいる国ほど女性起業家は不利
女性のエンパワーメント、つまり女性が社会の中で積極的に高い地位に就き、意思決定に関与する割合が増えると、性別による差別が解消されると考えられがちです。
しかし、今回の研究では興味深いことに、女性の社会的地位が高いとされる国でも性別による格差が残っているどころか、むしろ悪化する場合があるという逆説的な結果が得られました。
この理由として挙げられているのが「既存の支配層による反発」です。
女性が高い地位に就くことは社会における男性の既存の優位性を脅かすものとみなされることがあります。その結果として「男性優位の社会秩序を守るために女性を排除しようとする動き」が強まる可能性があります。
特に銀行などの伝統的な業界では女性の台頭が「競争相手の増加」として認識され、男性主導の組織文化を維持しようとする圧力が強く働くと考えられます。
このような背景から、女性の社会進出が進む国では銀行が女性起業家に対してより厳しい条件を課すようになったり、女性に対する偏見が強まる可能性があります。
つまり、女性が活躍する場が増えれば増えるほど、既存の体制を守ろうとする側からの反発も強くなり、結果的に女性起業家への差別が一時的に悪化するという現象が起こるのです。
このように、女性起業家が銀行融資で不利な扱いを受ける背景には単なる個別の偏見だけでなく、社会全体の価値観や政治的状況、そして女性の社会進出に対する反応といった複雑な要因が絡んでいることが明らかになっています。
参考文献：Malmstrom, M., Burkhard, B., Siren, C. et al. (2024). A Meta-Analysis of the Impact of Entrepreneurs’Gender on their Access to Bank Finance.