飲食店経営者の中には、お客さんが料理の写真を撮影するのを、快く思わない人もいるでしょう。
スマホで何枚もパシャパシャしているのを見たら、「冷める前に早く食べてほしい…」と思うのは、おかしなことではありません。
他のお客さんの迷惑にならないか、不安になることもあるでしょう。
しかし、お店を長く続けたいなら、料理の写真を撮ってもらい、レビューサイトに積極的に投稿してもらったほうが良いかもしれません。
それによって、廃業のリスクを下げられる可能性があります。
「Yelp」の投稿内容と飲食店の生存率の検証
レビューサイト「Yelp」の投稿内容と、その飲食店の将来の生存率を調べたウェスタン大学のメンシア・チャン助教らの研究があります。
この研究では、17,719軒の飲食店について投稿された、755,758枚の写真と、1,121,069件のクチコミの文章を分析しました。
写真に関しては、画像認識技術を用いて、それが料理なのか、内装なのか、店舗外観なのか、を識別し分類しました。
クチコミの文章は、味やサービス、価格などの評価をテキストマイニングで抽出し、分析しています。
これらの情報をもとに、飲食店が翌年以降も営業を継続しているかを検証しました。
料理の写真が多く投稿された飲食店ほど生存確率が高い
検証の結果、投稿における「料理の写真」の割合が高くなるほど、その飲食店が翌年以降も営業を継続している確率が高くなることが分かりました。
内装や店舗外観の写真の多さも、多少は関係していましたが、料理の写真ほど影響は大きくありませんでした。
また、「役に立った」と投票された写真が多いお店も、閉店しにくい傾向にありました。
一方で、写真の美しさ(明るさや構図など)は、それほど関係ないことが分かりました。
それから、肯定的なクチコミの文章が多くなるほど、営業を継続している確率も高くなるという結果も得られましたが、文章は写真ほどの効力を持っていませんでした。
さらに、予測できる期間にも差がありました。料理の写真の多さは3年後の営業を継続している可能性を予測できましたが、肯定的なクチコミの文章が予測できるのは1年後まででした。
なぜ料理の写真が重要なのか?
なぜ写真が多く投稿されている飲食店ほど、営業を継続している確率が高いのでしょうか?
その理由は2つの観点から説明できます。
【理由1】料理の写真が適切な判断材料になる
人間は、視覚的な情報を速く処理する能力を持っています。脳は文字よりも画像を6万倍早く処理できるなどといわれたりもします。
特にYelpや食べログのようなレビューサイトを見るとき、私たちは写真をざっと見て「この店に行ってみたいかも」と直感的に判断することが多いです。
このとき、最も判断に役立つのが「料理の写真」なのです。なぜなら、料理の写真は次のような情報を一瞬で伝えてくれるからです。
- どんなメニューがあるのか
- 量や盛り付け、彩り
- 味のイメージ(脂っこそう、あっさりしてそう、など)
- 自分の好みに合いそうかどうか
たとえば、レビューに「真っ黒なスープのすごくユニークなラーメンがあります!」と書いてあっても、それだけでは、そのユニークさが自分の好みに合うかどうかは分かりません。
しかし、写真があれば、スープの色、トッピングの種類、器のデザインなどから、「これは自分が好きそうなやつだ」と瞬時に判断することができます。
つまり、料理の写真は、お客さんとお店との「相性」を判断する材料として非常に優れているのです。
こうした適切な判断材料があることで、多くの人が「行ってみたい」と思う可能性が高くなりますから、その飲食店が生き残りやすくなるのです。
また、事前に写真でイメージを膨らませておくことで、「期待外れだった」と思われる可能性も減りますから、評判が悪くなるリスクも下げられます。
【理由2】写真の多さは満足度のシグナル
料理の写真がたくさん投稿されているということは、多くのお客さんが「この料理は写真に撮って残したい」と思ったということです。
食事中にわざわざスマホを取り出し、料理を撮影する行為には少なからず手間がかかります。
他人の目を気にする人も多い中で、それでも写真を撮って投稿するという行動には、それなりの理由があるのです。
その理由は、「この料理がとても印象的だった」「他の人にも見せたいくらい感動した」「美味しさや盛り付けに驚いた」といったポジティブな感情や体験に基づいていると推測できます。
つまり、料理の写真を撮って投稿する行動自体が、その店での食事体験に対する高い満足度の表れなのです。
レビューサイトの写真の多さは満足度のシグナルとして働いているということです。
中価格帯の飲食店ほど写真が重要
レストランのタイプによっても、写真の影響は変わります。
まず、チェーン店ではない、独立系のレストランや、歴史の浅い飲食店(創業0~20年)ほど写真の効果が大きいことが分かっています。
チェーン店はどんな料理が出るのか多くの人が知っているため、写真の有無が来店の判断に影響を与えませんが、独立系や開店したばかりの飲食店は、多くの人が知らないため、写真が来店の意思決定に大きな影響を与えることが原因と考えられます。
また、中程度の価格帯(Yelpの分類で11~30ドルの範囲)の飲食店も、写真の影響が大きいことが分かっています。これは、この価格帯の客層が最も選択に慎重だからです。
高価格帯の客層はブランドやサービスで選ぶことが多く、低価格帯の客層は安さのみで選ぶことが多いため、写真の影響を受けにくいです。
それに対して、中価格帯の客層は手頃さと質のバランスを重視することが多いため、雰囲気や料理の見た目を判断できる写真が重要になるのです。
あなたが中価格帯の飲食店を経営しているなら、写真撮影は歓迎したほうが良いかもしれません。
参考文献:Mengxia Zhang. and Lan Luo. (2018). Can Consumer-Posted Photos Serve as a Leading Indicator of Restaurant Survival? Evidence from Yelp.