VCからシード資金を得られるスタートアップの特徴!商標出願していることだった

起業したばかりのスタートアップにとって、最初の難関のひとつが「資金調達」です。

どんなに優れたアイデアや技術を持っていても、それだけでは事業を前に進めることはできません。

とくにシード期と呼ばれる初期段階では、売上も実績もないため、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金を得るには、それ相応の「信頼」を築く必要があります。

では、VCは何を見て投資を判断しているのでしょうか?

これまでの研究では、創業者の経歴や技術力、業界の成長性などが注目されてきました。もちろん、これらも重要な要素です。

しかし、実際には「それだけでは決め手にならない」というのが、VCの本音のようです。

実は「商標」を出願しているかどうかが、出資の判断に影響しているのです。

商標出願するとシード資金を得られる確率が3.85倍

「商標出願」と聞くと、どちらかといえば大企業やブランド企業の話に思えるかもしれません。

ロゴやサービス名を保護するための手続きというイメージが強く、スタートアップが創業間もない段階でそこにリソースを割くべきか、疑問に感じる方もいるでしょう。

しかし、ミュンスター大学のヴェレーナ・リーガー教授らが、スタートアップ5,370社、10年分のデータを分析したところ、「商標」を出願している企業は、そうでない企業よりも、シード資金を得られる確率が最大で3.85倍高くなることが明らかになったのです。

なぜ「商標出願」がVCにとって好材料になるのでしょうか?

【理由1】マーケティング意識の高さが伝わる

その理由は、「マーケティングへの意識の高さ」が伝わるからです。

商標を出願するということは、自社のブランドを早期から意識し、市場での位置づけを考えているという証拠です。

これは、単なる技術開発だけでなく、商品やサービスを市場に届ける意志があることを示すシグナルとなります。

【理由2】計画性と準備力のアピールになる

「計画性」と「準備力」がうかがえる点も重要です。

商標出願には、適切な名称の選定、競合調査、Nice分類(国際的な商品分類)の選定など、意外と多くの作業が伴います。

それを創業初期にこなしているという事実は、「このチームは戦略的に動ける」という印象を与えるのです。

【理由3】法務リスクの管理能力が伝わる

法務リスクを管理できている、という側面も見逃せません。

ブランドに関するトラブルは後になってから発生しがちですが、早めに商標を押さえておけば、そのようなリスクも減らせます。

VCにとっては、自分たちの投資が、将来的なトラブルで損なわれないかどうかが、大きな関心事です。

その意味で、商標出願は「守り」の面でもプラスに働きます。

このように、たった一つの「出願行為」が、マーケティング志向、戦略性、法務意識といった複数の能力を間接的に示してくれるため、VCにとっては非常に強い正当性のサインになるのです。

出願のタイミングによって資金調達の確率が変わる

商標出願のタイミングによって、資金調達への効果が変わるkことも分かっています。

分析によれば、創業から100日以内に商標を出願したスタートアップは、VCからの評価がとくに高まる傾向にあることが分かりました。

つまり、タイミングが早ければ早いほど、「しっかり準備している感」「将来を見据えて行動している感」が伝わりやすくなるのです。

逆に、1,000日を過ぎた段階での出願では、VCの反応はほとんど変わらない、という結果も出ています。

この段階では、すでに製品開発や市場進出が進んでおり、「ブランドを守るために商標を取るのは当然」と見なされてしまうため、特別な評価にはつながりにくいようです。

業界によっても影響が異なる

どのような業界にいるかも、商標出願の効果に影響を与えます。

技術の変化が激しい業界(例:AI、バイオテックなど)では、商標出願の効果は限定的です。

これは、製品やサービスの方向性が大きく変わる可能性が高いため、早期のブランド戦略が「無駄になるかもしれない」と考えられるからです。

一方で、競争の激しい市場や、地方のスタートアップにとっては、商標出願の価値はより高くなることが明らかになっています。

競合が多い市場では、差別化とブランド構築の重要性が増します。

また、スタートアップ・クラスター(たとえばシリコンバレーなど)に属していない地方の企業にとっては、外部リソースの少なさを補う「信頼の証」として、商標出願が機能するのです。

VCの信頼を得るシグナルとなるなら安い投資

商標出願は、ブランドを守る法的な手続きにとどまらず、スタートアップの将来性を投資家に伝える「静かなメッセージ」でもあります。

データでは、商標を出願したスタートアップのうち26%が創業から半年以内に出願しており、そのうち約75%が最終的に商標登録に成功しています。

これは商標を取ろうという動きが、決して一部の例外ではないことを示しています。

もちろん、商標出願には費用も手間もかかります。弁理士に相談する必要があるかもしれません。

それでも、ブランドに対する姿勢を早い段階で示すことが、プロダクトや財務状況と同じか、それ以上にVCの信頼を得る一因となるなら、その投資は決して無駄にはならないでしょう。

参考文献:Rieger, V., Dreller, A., & Engelen, A. (2024). Zooming In on the Very Early Days: The Role of Trademark Applications in the Acquisition of Venture Capital Seed Funding. Journal of Marketing Research, 62(1), 170-188.