高い業績を誇り、社内外で評価されている人材を「スター社員」と呼びます。
海外の人事戦略に関する論文などでは、しばしば目にする言葉です。
あなたが経営する会社にも、スター社員は一定の割合で存在していると思いますが、彼らを最大限に活用できているでしょうか?
実はスター社員をどう配置するかによって、他の社員のパフォーマンスも変わるのです。
一つの部署に多く集め過ぎてもダメですし、少なすぎてもダメなのです。人材配置の最適な割合というものが存在します。
スター社員は部署内に何割いれば良いか
スター社員の割合が、スターではない社員(以下、一般社員)に与える影響を調べた、テキサスA&M大学のマシュー・コール准教授らの研究があります。
この研究は業界の特殊性による影響を排除するため、二つの異なる業界(医療機関と商業不動産会社)を対象に行われました。
まず、研究者たちは各組織において、スター社員を定義しました。医療機関では、優れた業績を持ち、リーダーシップ開発プログラムに選抜された看護師がスター社員として分類されました。
一方、商業不動産会社では、経営陣によって「キーパーソン」として認められている社員がスター社員とされました。
その後、各組織のデータを収集し、部署ごとのスター社員の割合と、一般社員のパフォーマンスとの関係を分析しました。
データ分析の手順では、一般社員のパフォーマンスを評価するために、各組織で使用されている業績評価スコアを活用しました。
さらに、一般社員の特性(勤続年数やネガティブ感情の影響など)を考慮し、部署内のスター社員の割合がどのように影響を与えるかを統計的に検証しています。
一般社員のパフォーマンスが向上するスター社員の比率
データを分析したところ、スター社員の割合と一般社員のパフォーマンスの関係は、右肩上がりの直線ではなく、逆U字型の曲線であることが判明しました。
つまり、スター社員が適度に存在する場合には、一般社員のパフォーマンスが向上するものの、一定の割合を超えるとその効果が低下し、むしろ逆効果になる可能性があるということです。
具体的なデータとしては、医療業界のサンプルでは一般社員のパフォーマンスを高めるスター社員の比率が約18%、商業用不動産業界では約29%という結果でした。
なぜスター社員が多すぎるとダメなのか
なぜスター社員の割合が多くなり過ぎると、他の一般社員のパフォーマンスが向上しにくくなるのでしょうか?
それには次のような理由があります。
【原因1】代理学習の一貫性が失われる
まず、スター社員の存在が、一般社員に良い影響を与えるのはなぜかということから説明すると、代理学習が起こるからです。代理学習とは、優れたロールモデルを観察することで、その行動を学び、自己のスキルを向上させることです。
スター社員は、優れた業績、効果的な業務遂行、優れた対人スキルを備えており、一般社員は彼らの行動を観察することで業務の質を向上させることができます。特に、経験の浅い一般社員は、直接的な経験に乏しいため、スター社員の行動を通じて学ぶ機会が多くなります。
しかし、スター社員が増えすぎると、学習の一貫性が失われます。一般社員は誰の行動を学ぶべきか判断しにくくなり、結果として学習効果が薄れ、パフォーマンスの向上が停滞または減少してしまうのです。
また、スター社員同士の主導権争いが生じ、チームワークが悪くなり、全体の生産性が下がることもあります。
【原因2】比較によるプレッシャーが生じる
社会比較理論によれば、人は身近な他者と自分を比較し、自己評価を行います。
スター社員が多くなることで、一般社員は常に自分とスター社員を比較する状況に置かれ、心理的ストレスを感じやすくなります。
部署のスター社員比率が低から中程度のとき、社会比較はモチベーションの向上につながる可能性があります。適度な数のスター社員がいることで、一般社員は「自分も成長できる」と感じ、学習意欲を高めることができます。
しかし、スター社員が増えすぎると、一般社員は「自分は劣っている」と感じやすくなり、ストレスや不安が増加する傾向が見られます。特に、ネガティブ感情の強い一般社員にとっては、この比較が過度なプレッシャーとなり、モチベーションの低下につながることが、研究でも判明しています。
【原因3】スター社員にだけリソースが集中する
スター社員は通常、多くのリソースを得る傾向があります。
彼らは時間、トレーニング、仕事の機会などの重要なリソースを優先的に享受することが多く、これが一般社員の成長機会に影響を与える可能性があります。
部署のスター社員の比率が適度であれば、リソースの配分はバランスが取れ、一般社員にもトレーニングやプロジェクトの機会が提供されやすくなります。
しかし、スター社員が多くなりすぎると、彼らが主要な仕事やトレーニング機会を独占し、一般社員に割り当てられるリソースが減少する可能性があります。
その結果、一般社員のパフォーマンス向上が阻害され、組織全体の成長にとってもマイナスの影響が生じることが考えられます。
組織の成長フェーズによっても変わる
ここまで説明したように、スター社員を配置するには、最適な割合というものが存在します。
今回の研究では、18%(医療業界)と29%(商業用不動産業界)と出ていますが、この割合は業界や企業の特性によって変わります。それでもだいたい1~3割くらいまでが最適となるケースが多いと考えられます。
もちろん、割合だけではなく、他の社員の実力や性格、組織全体のバランスを考慮して、人材を配置することが重要です。
また、スター社員自身のモチベーション管理も重要です。スター社員が自身のスキルや知識を一般社員と共有する意欲を持たなければ、学習の機会は限定されてしまいます。そのため、企業はスター社員に対して「指導者としての役割」を意識させるような研修やインセンティブを提供することが有効でしょう。
さらに、組織の成長フェーズによっても、スター社員の最適な配置は変化する可能性があります。例えば、スタートアップのように成長スピードが求められる段階では、スター社員の集中配置が有効なケースもあるかもしれません。
一方で、安定期にある企業では、持続的なチームワークや知識の継承が重視されるため、スター社員を適度に分散させる方が効果的でしょう。
このように、スター社員の配置は、組織の状況やチームの構成によって異なる結果をもたらします。
そのため、経営者は、一律の施策ではなく、状況に応じた柔軟な人材配置戦略を考えなければなりません。
成長させたい分野にだけ集中して優秀な人材を集めたりしないように、気をつけてください。
参考文献:Call, M. L., Campbell, E. M., Dunford, B. B., Boswell, W. R., & Boss, R. W. (2021). Shining with the stars? Unearthing how group star proportion shapes non‐star performance.