サステナブル素材なのに…。ペットボトルから作った服が売れない理由

環境への配慮が求められる今の時代、サステナブル素材を使った衣料品が注目を集めています。

特に、使用済みのペットボトルを再利用して作られたTシャツやバッグは、多くのブランドが取り入れています。

ところが、これらの商品は「環境にやさしい」という好印象とは裏腹に、意外と売れていなかったりします。

なぜ、消費者はサステナブル素材を使用した商品に否定的なのでしょうか?

その理由に迫ったのが、ユタ州立大学ビジネススクールのマシュー・メン准教授らの研究です。

ペットボトルから作られたTシャツを評価する

この研究では、進化心理学の視点から、「なぜ環境に良いはずの再生プラ衣料が受け入れられにくいのか」ということを調べています。

まず、ペットボトルから作られた衣類に対する消費者の評価を検証するために、215名の男女に、Tシャツを評価してもらいました。

このとき参加者は、無作為に以下の2つのグループに分けられました。

  • 「このTシャツは未使用のペットボトルから作られました」と伝えられるグループ
  • 「このTシャツは使用済みのペットボトルから作られました」と伝えられるグループ

いずれの場合も、Tシャツの見た目やブランドは同じで、異なるのは原材料の使用履歴に関する情報のみです。

そのうえで、参加者には「このTシャツをどのくらい購入したいか」という購買意欲を7段階で評価してもらいました。

また、Tシャツが「清潔か汚れているか」という印象も同様に7段階で評価してもらいました。

サステナブル商品は汚れている気がする

参加者からの評価を分析したところ、使用済みペットボトルで作られたTシャツは、未使用のペットボトルから作られたものよりも「汚れている」という印象を強く持たれる傾向にありました。

そして、そのような「汚染されてる感」が高まることで、実際の購買意欲も有意に低下することが分かりました。

また、今回の実験では各参加者の「嫌悪感受性(公共のトイレや他人が使った飲み物への接触など、衛生的な不快感に対する敏感さを測る尺度)」も測定されていましたが、この「嫌悪感受性」が高い人ほど、使用済のペットボトルから作られたTシャツに対する購買意欲が低い傾向にありました。

つまり、日常生活の中で不潔さに敏感な人ほど、再生プラスチック由来の衣類に対して「気持ち悪い」「衛生的に心配」といった感情を抱きやすく、それが購買意欲の低下に直結しているのです。

また、この「汚染されてる感」が単なる印象ではなく、購買意欲に具体的な影響を与えていることは、統計分析の結果からも確認されています。

使用済みという情報が「汚い」という認識を引き起こし、それがそのまま「買いたくない」という気持ちにつながっているということです。

つまり、環境にやさしいという理性のメッセージが、進化心理学的な本能の嫌悪感によって打ち消されてしまっているのです。

また、別の調査では、使用済ペットボトルを原料とするトートバッグとTシャツでは、Tシャツのほうが、より「買いたくない」と思われる傾向が強いことも分かっています。

直接、肌に触れるものほど、嫌悪感の影響が強く出るということです。

サステナブル素材が高い値段で買われる条件

以上のように、サステナブル素材で作られた商品は、マイナスのイメージを持たれてしまうリスクがあります。

一方でプラスのイメージを持たれることもあります。

それは、前の持ち主が魅力的な人物である場合です。

今回の研究では、別のパターンでの検証も行っています。Tシャツを評価してもらうときに、その素材となったペットボトルを使ったのが誰か?という情報を提示したのです。

こちらの検証では、参加者に「このTシャツは、あるランナーが飲んでいたペットボトルから作られました」という説明が与えられました。

そして、そのランナーの写真として、同性または異性の魅力的な人物の画像が提示されました。

このとき参加者は、「実際に写真の人物が使用したペットボトルから作られました」と伝えられるグループと、「写真はイメージです」と伝えられるグループに分けられました。

参加者はそれぞれ提示されたTシャツに対して、「いくらまでなら支払いたいか」という形式で評価を行いました。

その結果、魅力的な異性が実際に使用したペットボトルから作られたTシャツとして提示されたとき、最も高く買いたいと評価されることが分かりました。

これは元の持ち主が持つ魅力的なエッセンスが、製品にも転移したことが原因といえます。

つまり、同じ「使用済みペットボトル」でも、その出どころが好ましい存在であるかどうかによって、印象が変わるということです。

消費者の「感情のバリア」を考慮する

ということで、サステナブル素材で作った商品を販売するためには、その出所が魅力的であるとアピールすれば良いのですが、かなり難しいことだと思います。

イケメンや美人にお願いして、使用済みペットボトルを収集するというのは現実的ではありません。

ですから、良さをアピールするというよりは、嫌悪感を持たれないようにすることが重要です。

例えば「使用済ペットボトルから作られました」と説明すると、汚く感じてしまう人がいます。

そこで「サステナブル素材であるペットボトルから作られました」という説明に変えることで、汚れているというイメージを軽減させるのです。

また、別の研究では、ストーリー性を持たせると、サステナブル商品が売れやすくなることが分かっています。

販売収益の一部が、環境保護活動に使われることや、途上国の教育に使われることなどを説明することで、それに貢献したいという気持ちを喚起し、購買意欲を高めることができるのです。

消費者の行動は常に理性や倫理観に基づいているとは限りません。

「環境にやさしいから買おう」と頭では思っていても、本能的な嫌悪感がその行動を妨げてしまうのです。

企業がサステナブルな素材を取り入れる際には、こうした「感情のバリア」を考慮することも大切です。

参考文献:Matthew D. Meng, R. Bret Leary. (2019). It might be ethical, but I won’t buy it: Perceived contamination of, and disgust towards, clothing made from recycled plastic bottles.