スタートアップの資金調達では、いまだに女性起業家が不利な扱いを受けるケースがあります。
実際、ベンチャーキャピタル(VC)による出資先の大半は、男性起業家で占められています。
このような現状から、「女性であること」そのものがハンディキャップになっていると考えられがちです。
しかし、本当に「性別」が直接的な原因となっているのでしょうか?
この問いに、意外な答えを提示したのが、バブソン大学のラクシュミ・バラチャンドラ博士らの研究です。
この研究が示したのは、「女性だから」ではなく、「女性的な態度」が投資家からの評価を下げているという意外な結論でした。
起業家の1分間のピッチを分析する
この研究では、「男性と女性の起業家が投資家にどう評価されるのか?」を調べるために、実在のビジネスピッチコンテストの映像を使いました。
このコンテストでは、起業家が1分間という短い時間で、自分のビジネスの魅力を投資家にアピールします。
スライドや資料は使えず、自分の声と態度だけでPRします。つまり、見た目の印象や話し方、立ち居振る舞いがとても大切になる場面です。
この映像を、男女の第三者が音声を消して視聴し、起業家の態度が「男らしい」か「女らしい」かを評価しました。
「男らしい態度」というのは、自信にあふれていて堂々としていたり、強いリーダーシップを感じさせるものを指します。「女らしい態度」とは、表情がやわらかく、やさしさや感情の豊かさが伝わってくるようなものです。
このコンテストでは、各ピッチのあとに実際の投資家(ベンチャーキャピタルの関係者)が「この人にもっと話を聞いてみたい」と思った起業家を2名選びました。
つまり、「誰が選ばれたか?」をもとに、起業家の性別や態度が、投資家の判断にどう影響していたかを分析したのです。
投資家は「性別」と「態度」のどちらを見ていたか?
分析の結果、起業家の「性別そのもの」は投資家の評価に影響を及ぼさないことが明らかになりました。
つまり、男性だから有利とか、女性だから不利、ということはなかったのです。
しかし、より深く分析してみると、起業家が「どんな態度だったか」が投資家の判断に大きく関わっていることがわかりました。
特に、女らしい態度だった人は、男性でも女性でも、投資家からの評価が下がっていました。
反対に、男らしい態度だった人は、少しだけ良い評価を受けやすい傾向はあったものの、明らかに有利とまではいえませんでした。
また、女性が「男らしい態度」を取っても、それで評価が悪くなるということはありませんでした。これは、よく言われる「女性らしくない女性はマイナス評価を受ける」という話とは違う結果です。
さらに、補足の実験も行われました。そこでは、男らしい態度の男性と、女らしい態度の男性のビデオを投資家に見せて、「どちらが仕事ができそうか?」と聞きました。
すると、男らしい態度の男性の方が、「リーダーらしい」「しっかりしていそう」といった印象を持たれることが分かりました。
なぜ女性的な態度の起業家は低評価されるのか?
なぜ、男女ともに「女性的」とみなされる行動を取ると、投資家から否定的に評価されるのでしょうか?
その理由は、起業家としての「ビジネス能力」に対する印象が悪くなるからです。
多くの投資家は、成功する起業家にはリーダーシップ、自信、積極性といった「男性的」とされる特性が必要だと無意識に考えています。
そのため、温かさや感情表現といった「女性的」と見なされる行動を目にすると、「この人はリーダーとして弱そうだ」「ビジネスの厳しさに耐えられなさそうだ」といったネガティブな印象を持ってしまうのです。
このような印象は、起業家が実際に能力があるかどうかとは関係ありません。あくまでピッチの場面で一瞬にして判断される「見た目の印象」や「非言語的な態度」によって判断されてしまいます。
つまり、起業家が優しく話したり、感情を込めて表現したりすると、それだけで「リーダーシップが弱い」「準備不足」と見なされやすくなるのです。
また、起業という活動そのものが「男性的な世界」として捉えられがちであり、その中で「女性的」な振る舞いは違和感として受け取られてしまうことも、評価を下げる原因です。
そのため、男性でも女性でも、女性的な行動を取ると「この人は起業家らしくない」と思われ、結果的に投資の対象から外されやすくなるのです。
女性起業家が資金調達の可能性を高めるために
ピッチは単にアイデアを説明する場ではなく、「自分自身というプロダクト」をプレゼンする場でもあります。
特に初期段階の資金調達では、事業内容以上に「この人に投資したい」と思わせる信用や頼もしさが強く影響します。
実際、研究では1分間の短いピッチの中で、非言語的な要素(姿勢や表情、目線など)によって「ビジネスパーソンとしての有能さ」が評価されていることが分かりました。
つまり、何を話すかだけでなく、どう見せるかも極めて重要なのです。
これからピッチの機会を控えている女性起業家は、事業内容のブラッシュアップと同じくらい、自分の話し方や立ち居振る舞いにも意識を向けると良いかもしれません。
ジェンダーによる先入観が完全になくなるにはまだ時間がかかるかもしれませんが、「態度」というコントロール可能な要素を整えることで、資金調達の可能性は大きく広がります。
参考文献:Balachandra, L., Briggs, T., Eddleston, K., & Brush, C. (2017). Don’t Pitch Like a Girl!: How Gender Stereotypes Influence Investor Decisions.