売れる商品陳列の実験。食品は補充し、日用品は残り1個のままにしなさい

小売店の経営者であれば、商品をどう陳列するかも悩みどころでしょう。

例えば、棚に出ている商品が残り1つになっていたとしましょう。

このとき、すぐに在庫を補充するべきでしょうか?

それとも、あえてそのままにして、顧客が「残りの1個だラッキー」「みんなが欲しがる人気の商品だ」と思って、買ってくれるのを待つべきでしょうか?

正しい戦略は、商品の特性によって変わります。

食品であれば直ちに補充したほうが売れます。反対に洗剤などの日用品は、残りの1個の状態で人気商品のように見せたほうが売れます。

これには進化心理学的なメカニズムが関係しています。

残り1個の卵パックは売れない

実際の店舗で、陳列棚の状態が消費者の購買行動に与える影響を検証した、サンディエゴ州立大学のイアナ・カストロ教授らの実験があります。

この実験では、パック入り卵の並べ方を変えて、その売れ行きを確認しています。

並べられたのは2つの有名メーカー(仮にAとBとします)の卵で、並べ方は以下の2パターンです。

  • メーカーAとBの卵パックを大量に並べる
  • メーカーAの卵パックだけ大量に並べ、メーカーBの卵パックは1個だけ(斜めに)雑に置く

上記2パターンでの陳列をそれぞれ2週間ずつ行いました。どちらも商品が売れたらすぐに店員が補充することで、常に同一条件を保てるようにしました。

そして、最終的な販売データを確認したところ、2つのメーカーを大量に並べたときは、Bは34%の顧客が選びました。(※1)

これに対し、1個しか置かなかったときは、Bは9%の顧客しか選びませんでした。

つまり、「残り1パックしかないということは人気の卵なのだ」とは思ってくれなかったということです。

「みんなが触った汚いもの」という心理が芽生える

なぜ残り1個だと売れなくなるのでしょうか?

それは「汚い」と思うからです。

消費者は乱雑な棚を見たとき、他の人が触れたことを無意識に想像してしまいます。

しかも、商品が1個しか残っていなければ、「他人の接触」がその1個に集中していると感じます。

こうした状況では、「この商品は皆に触られていて、不衛生かもしれない」という嫌悪感が生まれやすくなります。

特に食品は体内に取り込むものですので、他人の触れた可能性に対して本能的に敏感になります。

これは「病気を避けるための進化的な防衛反応」とされています。

たとえ製品がパッケージされていて物理的な汚染のリスクがほとんどなくても、視覚的な乱雑さや「最後の1つであること」が汚染のシグナルとして機能し、購買意欲を下げてしまうということです。

こうした効果は、知名度の高いメーカーの商品ほど強く出ることも分かっています。

なぜなら、元々知っているもののため、今さら人気かどうかの判断をする余地がないからです。それよりも、汚いかどうかの判断のほうが優先されやすいのです。

ですからバックヤードにさえ在庫がなくて本当に最後の1個になっている商品は、せめて真っすぐ置きましょう。斜めになっていると他の人が触ったイメージがどうしても強く出てしまいます。

無名メーカーの石鹸は残り1個のほうが選ばれやすい

食品以外の商品では、残り1個しか陳列されていないことがプラスになることもあります。

これも先ほどのイアナ・カストロ教授らの実験です。こちらの実験の手順は、先ほどとほとんど同じですが、陳列した商品は「石鹸」でした。

また、実際の店舗ではなく、ラボ内で実験に参加してくれた人にお礼として、好きな方の石鹸を選んでもらうという形でした。

結果は以下の通りとなりました。

  • 有名メーカーの石鹸は、大量陳列でも、1個だけの陳列でも、選ばれる確率は変わらない
  • 無名メーカーの石鹸は、1個だけの陳列のときの方が選ばれる確率が高くなる

「後悔したくない心理」vs「汚いものを避けたい心理」

なぜ無名メーカーの石鹸は残り1つのときに、選ばれやすくなったのでしょうか?

それは「商品選択で後悔したくない心理」が、「汚いものを避けたい心理」に勝ったからです。

食べ物ではない石鹸であっても、残り1個のものを見たら、「皆が触って汚い」と感じて避けたい感情は生じます。

しかし、体内に入れるわけではありませんから、この感情はそれほど強くはありません。

それよりも、よく知らないメーカーに対し、「この商品は良いのか悪いのか」「買って後悔しないか」といった不安や不確実性のほうを強く感じます。

人間はこうした不確実性を減らすために、他人の行動からヒントを得ようとします。これを「社会的証明(social proof)」と呼びます。

つまり陳列の乱雑さと在庫の少なさを「人気」のサインと解釈し、メーカーについて知らなくとも、「きっといい商品なんだろう」と考え、購買意欲が高まるということです。

これに対して、有名メーカーのものは良く知っていますから、「後悔したくない」という心理は生じにくく、「汚いものを避けたい」という感情のほうが勝つということです。

とはいえ、食品ほどには「汚いものを避けたい」という感情は強くありませんから、「残り1個が残っててラッキー」という感情と相殺されて、購買意欲は下がらないと考えられます。

以上の結果を踏まえ、商品を陳列する際には、それぞれの特性にあった並べ方にしましょう。

もちろん店舗レイアウトや客層によっても結果は変わりますけれどね…

参考文献:Castro, I. A., Morales, A. C., & Nowlis, S. M. (2013). The Influence of Disorganized Shelf Displays and Limited Product Quantity on Consumer Purchase.