部下の話を聞かない上司(管理職)の心理。自己効力感の低さと防衛機制が働いている

あなたが経営している会社の管理職は、部下の話をきちんと聞いているでしょうか?

どれだけ建設的な意見を伝えられても、聞く耳を持たない管理職は多いものです。

部下の意見というだけで、拒絶反応を示してしまう人もいます。

このような管理職の下についている部下は、「うちの上司は何を言っても無駄」と感じ、やがてモチベーションを低下させます。

それが組織全体に波及すると、士気が下がり、業績も低下します。

なので、話を聞かない管理職を放置してはいけません。きちんと対処する必要があります。

そのためには、まず部下の話を聞かない管理職がどのような心理を持っているのか知っておきましょう。

「部下の意見を聞こうとするか」と「自己効力感」の関係

南カリフォルニア大学などのチームが、大手石油会社の従業員を対象に行った研究があります。

この研究では、上司とその部下を対象に、それぞれ別の調査票を用いて聞き取りを行っています。

まず上司には、自分が管理職としてどの程度有能だと感じているか、すなわち「自己効力感」に関する質問に答えてもらいました。

これは、「困難な状況でも職務をやり遂げる自信があるか」や「他者と比較して自分の能力をどのように認識しているか」など、自己評価に基づいた指標です。

一方で部下には、上司が日常的にどの程度、意見やアイデアを積極的に求めくるかについて評価してもらいました。

たとえば、「改善提案を求めることがあるか」「自分の持つ知識や経験について尋ねられることがあるか」といった具体的な行動に関する質問が用意されました。

そして、部下自身が実際にどれだけ率直に意見を述べているかについても、自己申告してもらいました。

(ちなみにこの調査では「仕事への満足度」などの、部下が意見を言うかどうかに影響しそうな要因も聞き取って、それらの影響を排除するような統計処理を行っています)

自己効力感の低い上司ほど、部下の話を聞かない

得られたデータを分析したところ、自己効力感の低い上司ほど、部下の意見を求めようとしないことが分かりました。

つまり、自分に自信がない上司ほど、部下の知識や提案を積極的に引き出そうとする声掛けをしないのです。

そして、こうした上司の消極的な姿勢が、部下の提案の回数自体を下げていることも分かりました。

上司から意見を求められる機会が少なければ、部下が自発的に意見を述べる可能性も低くなるのは自然なことです。

無能さを指摘されることへの恐れと防衛機制

なぜ、自己効力感が低い上司は部下の話を聞かないのでしょうか?

それには、自分の能力が疑われることへの不安や、心の防衛反応が関係していると考えられます。

管理職の役割には、「正しい判断でチームを導き、問題を解決できる有能な人であるべき」という強い社会的な期待があります。

しかし、自己効力感が低い上司は、自分がその期待に応えられていないと感じています。それによって、「自分は本当に管理職にふさわしいのだろうか」という不安を抱えています。

こうした上司は、部下からの意見や改善提案を「役に立つ情報の提供」ではなく、「自分の判断や能力に欠陥があると指摘する行為」と受け止めてしまいます。

そして、自分の心が傷つかないように、部下の声を避けようとするのです。

これは心理学でいうところの「防衛機制(ego-defense)」と呼ばれる反応であり、自己評価やアイデンティティが脅かされる状況を避けようとする心の働きです。

つまり、自己効力感が低い上司が部下の意見を聞かないのは、無能さを指摘されることへの恐れによる、防衛のメカニズムということです。

経営者は「部下の話を聞かない管理職」にどう対処するべきか?

さらに、研究では、こうした上司は部下の意見を積極的に求めないだけでなく、意見を述べた部下に対して否定的な評価を下す傾向があることも示されています。

つまり、意見を言う部下の存在自体が「脅威」として認識されてしまうのです。このような評価は態度に出ますから、部下のやる気も低下しがちです。

こうした管理職に対して、経営者が単に「傾聴しなさい」と指導しても意味はないでしょう。

それよりも、まずは経営者自身が率先して部下の声に耳を傾ける姿勢を見せることです。

それによって、「意見を聞くことは弱さではなく、リーダーシップの一環である」という価値観を浸透させていく必要があります。

また、「管理職としての役割を果たせていないのでは?」という不安を払拭してあげることも重要です。

出来ているところはしっかりと認め、できていないところに対しては成長を期待しているという態度を見せましょう。

部下の声を無視するという行動の背後には、見えにくい葛藤があります。

経営者がその葛藤に気づき、管理職の自信と安心を支える取り組みを行うことが、組織全体の風通しをよくすることにつながります。

参考文献:Nathanael j. Fast, Ethan r. Burris and Caroline a. Bartel. (2014). Managing to Stay in the Dark: Managerial Self-Efficacy, Ego Defensiveness, and the Aversion to Employee Voice.