部下を叱るときの注意点!「平均への回帰」を意識しないと危険

部下が何か間違ったことをしたり、成果を挙げられなかったりすると、つい叱ってしまうかもしれませんが、それはたいてい無駄な行為です。

それどころか、余計な軋轢を生んでいる可能性さえあります。

多くの人が勘違いしていますが、叱ったことで改善されたように見えるのは、ただの錯覚であることが多いのです。

それと「感情に任せて『怒る』のとは違って『叱る』は部下を思っての行動だから良いことだ」と思っている経営者もいますが、かなり危険な思想です。

今回は、経営者や管理職が部下を叱るときに注意しておくべき「錯覚」について解説します。

叱ることに効果があると思うのは勘違い

期待している部下が思ったほどの実績を出さなかったり、マイナスなことをやっていると叱ってしまう経営者は多いです。中には怒鳴り散らす人間もいます。

しかし、組織のマネジメントとしては超絶に無駄な行動です。

部下を叱ったり怒ったりするのは、意味がないどころか逆効果となることさえあります。

こう言うと「だけど叱ったことで部下が変わってミスが減った」とか「パフォーマンスが上がった」と反論する経営者もいます。

確かに叱った後に部下のミスは減りますし、パフォーマンスも上がるでしょう。

しかし、それは叱ったことによる効果ではありません。

単に元の水準に戻っただけなのです。「平均への回帰」が起こっているだけです。

「平均への回帰」

「平均への回帰」とは、非常に単純化していえば、偏った結果はやがて平均に戻る、ということです。

例えば、一ヶ月に平均で70個の商品を売る部下がいたとします。

この部下が、ある月に50個しか売れなかったとします。

この場合に、翌月は50個よりも多く売る可能性が高いことは分かると思います。統計的に当然です。

叱らずに放っておいてもパフォーマンスは改善する

このようなケースで、50個しか売れなかった月に部下を叱っていたりすると、「翌月に多く売れたのは叱ったおかげだ」と勘違いしてしまうのです。

放っておいても、平均への回帰によってパフォーマンスが改善する、ということには気づけないのです。

これはサイコロを振って「1」が出たときに、サイコロを叱って、次に「2」以上の目が出たから「叱ったおかげだ」と言っているのと同じことです。

褒めたからパフォーマンスが落ちるのではない

もちろん、反対のことも起こります。

70個売る能力のある部下が100個売った月に「よくやった」と褒めたら、翌月に80個しか売らなかったとします。

このとき「褒めたせいでのぼせ上って努力を怠ったせいだ」と勘違いしてしまいます。そして社員を褒めるのは逆効果と考えます。

褒めなくても、翌月の成果は落ちる確率のほうが高いことには気づけないのです。

とはいえ、褒めることはマネジメントとしては大事なことです。上手に褒めることで、元の70の力は上がるからです。

叱るのは無駄どころかマイナス効果

ここまでの説明で、叱っても叱らなくても部下のパフォーマンスは本来のレベルに落ち着くことが分かったと思います。

なので多くのケースで叱るのは無駄なのです。それどころかマイナスとなります。

尊敬していない相手から叱られても響かない

ドラマなどで、主人公のことを思って叱ってくれた上司のおかげで、目が覚めるシーンなどがあります。

起業家のインタビューなどでも、若い頃のエピソードとして、そういった話が披露されることもあります。

そういったものを見ると、叱るのは大事なことと思うかもしれません。しかし、これらはレアケースです。

そもそも、叱ることで効果が出るためには、大切な条件があります。

それは、部下があなたのことを尊敬していたり、あなたに憧れている、ということです。

確かにあなたが創業社長であれば、それなりの敬意を持っている可能性は高いです。しかし、その程度では足りないのです。

単に、社長や上司というだけでは尊敬もしませんし、憧れもしません。

そのような相手から叱られても、鬱陶しいと思うだけで響かないのです。特に就職活動中に「超売手市場」を体験して入社してきた世代の社員はこの傾向が強いです。

冷めた社員から「幼稚な上司」と思われる

部下は、上司が怒っているのか、叱っているのか、の区別がつかないことが多いので、単に感情的で幼稚な人間と思われるリスクもあります。

仮に冷静に諭したとしても『部下の叱り方』のようなタイトルのハウツー本でも読んだのだろう、と思われるのがオチです。

顧客企業の社員をインタビューする中でも、社長や上司に対して、こういった冷めた考えを持っている社員は多いです。

特に現代はネット上にあらゆる情報が転がっています。それを真似て実践しても、すぐにバレるので浅はかな人間と思われる可能性が高いです。

叱るより前に環境を整備することが大切

ここまで説明したように、叱って何らかの変化が生じたとき、それがただの「平均への回帰」なのか、部下の成長なのかきちんと見極めることが大切です。

「平均への回帰」が生じているだけなのに、「叱った効果だ」などと勘違いしてしまうと、社内の空気が悪くなり最終的に業績が落ちることになります。

企業の業績は、社員のモチベーションの影響を非常に強く受けるものなのです。

叱るよりも前に、まず社員のエンゲージメントが高まるような環境を社内で整備することのほうが大切です。

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