「タイパ」はもう古い!「チョイパ」が高くなければ消費者は満足しない

商品のバリエーションを増やすことで、多くの顧客の好みに対応できます。

しかし、近年の心理学研究においては、人間は選択肢が増えすぎると比較が面倒になって選択を先送りしてしまう、という結果も出ています。

日本でもベストセラーとなった、コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授の『選択の科学』という本で紹介されたジャムの法則(※1)というのは、人間のこうした性質を説明するものです。

※1 店にジャムを6種類並べたときより、24種類並べたときのほうが立ち止まる人の数は多かったが、実際にジャムを買う人の数は6種類並べたときの方が多かった。という実験結果から導き出された「人間は選択肢が多すぎると迷ってしまい行動しにくくなる」という法則。

日経新聞に「タイパ?もう古い、選挙も消費も「チョイパ」で進化 人類の幸福とは」という特集記事が出ていました。

現代は商品や情報の選択肢が多くなり過ぎているせいで、それらを選ぶためのコストが増え、それが経済損失につながっているという内容のものです。

例えば任天堂のゲームタイトル数は過去の15年で約200本から約3,400本に、楽天市場の商品数は約5,500万から約5億と増えているというデータが示されています。

こうした選択肢が無数にある中で、消費者が頼るのがAIによるサポートです。それによりチョイパ(=チョイス・パフォーマンス)を高めているのです。

日経新聞がα世代の1100人を調査したところ、そのうち7割が買い物の選択などにAIを使っていたそうです。

こんなにも多くの消費者が商品の選択にAIを使用しているのかと驚いたのですが、それだけチョイパを求める人が多いということです。

タイパとチョイパの違い

チョイパと似た言葉にタイパ(タイムパフォーマンス)があります。どれだけ短時間で成果を得られるかという考え方です。

映画を倍速で見るのはまさにタイパ重視の考え方でしょう。

しかし、マーケティングにおいて、消費者のタイパ意識だけを念頭に戦略を立てるのでは不十分です。

タイパを重視して映画を倍速で見るというのは、友達との話題についていきたいとか、つまらない内容だったときに自分の時間を無駄にしたくないといった、どちらかといえば消極的な動機です。

こうしたタイパを意識したマーケティング施策によって、「無駄な時間を使わずに済んだ」という感覚を持ってもらうことはできるでしょう。

しかし、リピート購入や良いクチコミを広めてもらうために必要な「良い物が選べた」という感覚を持ってもらうことは難しいです。

これに対してチョイパは、少ない負担で良い物を選びたいという考え方です。仮に時間が短縮できたとしても、その選択が良いものであるという確信が持てなければ満足度は高まりません。

逆に言えば、最短時間で選択を終わらせることが出来なかったとしても、最適なものを選べたと納得できれば満足感は高くなるということです。そしてその満足感がブランドロイヤルティを高め、継続購入やクチコミの拡散という行動にもつながるのです。

AIによるレコメンドを受け入れてもらい満足度も高める方法

人間の脳では処理しきれないほどの情報に溢れた今の時代、消費者にチョイパの良い買物だったという感覚を持ってもらうには、AIによるサポートは有効な手段となります。

しかし、AIで「これが今のあなたに最適な選択です」と提示されても、そのまま受け入れて満足できる人は少ないです。

人間は感情の動物ですから、「強制された」と感じると、心理的リアクタンスという現象が起こり、反発したくなってしまうのです。

ではどうすれば、AIによるレコメンドを快く受け入れてくれるのでしょうか?

それは「選択の余地」を残すことです。

ネゲヴ・ベン・グリオン大学のリオル・フィンク教授らの研究チームが行った実験があります。

この実験では、AIがどのような推奨を行えば受け入れられやすいかを検証しているのですが、それによると人間側の選択の余地が残されているほど受け入れられやすいことが分かりました。

例えば「最適案はコレです」と一つしか提案されないときよりも、「候補は三つあります」と複数提案されその中から選べるようにしたほうが、AIの提案を受け入れようという気持ちが高まりやすいことが分かっています。

また、自分で決定する余地があるときのほうが、その選択に対する満足感も高まりやすいことが、過去に行われた複数の研究からも分かっています。

自己決定理論と商品への満足度

なぜ人間は自分の選択の余地があるほうが、受け入れやすく満足度も高まるのでしょうか?

これは産業・組織心理学でよくいわれる「自己決定理論」で説明することができます。自己決定理論とは、人は「自分で選んで行動している」と感じられるほど、やる気や満足感が高まる心理を説明した理論です。

この理論では、人のモチベーションや満足度を支える基本的な要素として、以下の3つの要素が重要とされています。

  • 自律性:自分で決めているという感覚
  • 有能感:うまくできているという感覚
  • 関係性:他者や環境とつながっているという感覚

この考え方から見ると、AIのレコメンドで「これ一択です」と一つだけ提示される場合、便利だと感じる一方で、「勝手に決められた」という印象を持ちやすくなります。そうすると、自分で選んでいるという感覚が弱まり、内容が良くても心理的な抵抗が生まれてしまうのです。

一方で、三つの選択肢を提示されると、その中から自分の好みや状況に合うものを考えて選ぶ余地が生まれ、「最終的に決めたのは自分だ」という感覚を持ちやすくなります。

これは自己決定理論でいう「自律性」が満たされている状態です。自律性が満たされると、その結果に納得しやすくなり、満足度も高くなるのです。

さらに、複数の選択肢があることで、「比較して判断できている」という感覚も生まれます。これは「有能感」に関わります。自分はちゃんと考えて選択できる存在だと思えると、その体験自体が前向きなものになるのです。

また、人間は無意識のうちにAIに対しても、人間味を感じてしまうことが分かっています。そのため選択の余地を残した提案をされることで、「自分のことを考えてくれている」という感覚を持ちやすくなります。これは関係性を満たすことにつながります。

このように、選択の余地を残す提案をすることで、選ぶことの負担を軽減させつつも、自律性、有能感、関係性に良い影響を与えることができるのです。それによりレコメンドを受け入れやすくなり、結果として満足度も高くなるということです。

AIを使わずにチョイパを高める提案方法

予算の制約や、アルゴリズムに対する抵抗感からAIを使用したくないという企業もあるかと思います。

そのような企業であっても、顧客のチョイパを高めることは可能です。

例えば、顧客それぞれに合った判断基準を分かりやすく提示するだけでも、チョイパは高まります。

選択に迷っている顧客の多くは、「どれが一番良いか」ではなく、「自分にはどれが合っているか」が分からないのです。

そのため、「価格を重視する人」「使いやすさを重視する人」「安全性を求める人」など、異なる価値観に合わせた判断の軸を示すことで、顧客は自分の考えに近い基準を手がかりに選択できるようになります。

このような判断基準の提示は、「自分で選んでいる」という感覚を残しながらも、選択の負担を減らすことにつながります。

その結果、選んだ商品やサービスに対する満足度も高まりやすくなります。

重要なことは「自分の判断によって、少ない労力で、最適なものを選ぶことができた」という感覚を持ってもらうことなのです。

参考文献
  • L Fink, L Newman, et al. (2024).Let me decide: Increasing user autonomy increases recommendation acceptance
著者プロフィール
カネコユウスケの顔写真
カネコユウスケ
マーケター / 経営コンサルタント
大手企業とスタートアップで業務部門やコンサルティングに従事した後、独立。現在はデジタルマーケティング、ウェブサイト・動画などによるオウンドメディア制作等を手掛ける。
プロフィールへ
マーケティング