社員の定着率を上げるには「従業員価値提案(EVP)」が重要

優秀な人材を確保し、長く働いてもらうことが企業の成長につながります。

しかし、社員は常に他の企業と自分の働く環境を比較しています。良い条件の会社があればそちらに転職してしまうでしょう。

特に今は空前の売り手市場ですから、優秀な人材にとっては会社を選び放題です。

そのような環境の中で、社員の定着率を上げる方法として「従業員価値提案(EVP)」が重要になります。

「従業員価値提案(EVP)」とは?

「従業員価値提案(Employee Value Proposition:EVP)」とは企業が社員に対して提供する価値や利益の総称です。

具体的には給与や福利厚生などの経済的価値だけでなく、成長の機会やキャリアパスといった成長価値、職場の雰囲気や人間関係といった社会的価値など、社員がその企業で働くことによって得られるすべてのメリットを含みます。

簡単に言うと、EVPは「この会社で働き続けると、こんな良いことがある」と社員に感じさせる企業からの“魅力のパッケージ”です。

■従業員価値提案(EVP)の主な要素

  • 給与、ボーナス、福利厚生など、社員の生活を支える金銭的な報酬。
  • スキルアップやキャリアアップのための研修・教育、昇進の機会など、個人の成長を支援する要素。
  • 職場での人間関係、チームワーク、企業文化など、働きやすさや居心地の良さを感じられる環境。
  • 興味を引きつける仕事の内容や、創造性を発揮できる機会など、社員が「この仕事は面白い」と思える要素。
  • 自分の知識やスキルを実際の業務で活かすことができる環境。

従業員価値提案(EVP)の

ICFAIビジネススクール(IBS)のアシャ・ビヌ・ラジ博士が従業員価値提案がどのように社員の定着意向に影響を与えるか調査しています。

この調査では同一企業に少なくとも2年以上勤務している社員を対象に、勤務先の従業員価値提案をどう認識しているかと、その後も会社に残る意向について調べています。

また、企業と社員の間にある明文化されていない暗黙の期待や義務(心理的契約)や、その組織の一員であることをどれほど強く認識し誇りを感じているか(社会的アイデンティティ)についても調べました。

この調査の結果、次のことが分かりました。

1. 従業員価値提案(EVP)の効果

企業が社員に提供する「成長の機会」や「人間関係」、そして「適切な報酬」といった要素が充実している場合、社員はその企業に長くとどまる意向を強めることが明らかになりました。

特に、成長の機会に対する満足度は最も強い影響を与えており、社員は自身のスキルアップやキャリアの進展を重視する傾向があります。

また、人間関係についても、職場の仲間や上司との良好な関係性が社員の満足度を高め、定着意向に大きく寄与していることが確認されました。これらの要素が高い企業ほど、「社員が他の企業に移りたい」と感じにくくなるのです。

一方で、報酬(経済的価値)も一定の影響を与えるものの、成長や人間関係ほど強い影響は見られませんでした。

2. 心理的契約の役割

心理的契約とは社員が企業との間で暗黙的に感じている「期待と義務」のことを指します。例えば、「企業は私に対してキャリア成長の機会を提供するだろう」「公平な評価をしてくれるだろう」といった暗黙の期待が心理的契約に含まれます。

この調査では心理的契約がしっかりと守られていると感じた社員は企業から提供されるEVPに対してより満足し、定着意向が高まるという結果が得られました。

逆に、心理的契約が守られていないと感じた場合、企業がどれだけ魅力的なEVPを提供しても、社員はその価値を十分に感じられず、離職意向が高まる可能性があると考えられます。

さらに、心理的契約はEVPの効果を「強化する役割」を果たすことも明らかになりました。具体的にはEVPが提供する「成長価値」や「社会的価値」に対して、心理的契約が守られていると感じた社員はこれらの価値をより高く評価し、「この会社にとどまりたい」という意識が一層強くなるということです。

3. 社会的アイデンティティの役割

社会的アイデンティティとは社員が「自分はこの企業の一員だ」と認識する度合いを指します。

この調査では企業への帰属意識が強い社員ほど、提供されるEVPを魅力的に感じ、それが定着意向を高めるという結果が示されました。

特に、企業が「働きがいのある職場」「社員を大切にする企業」という良いイメージを築いている場合、社員はその企業と自分を結びつけて考え、自分のアイデンティティの一部とするようになります。その結果、「この会社で働き続けたい」という気持ちが強まるのです。

ただし、心理的契約の影響力と比べると、社会的アイデンティティの効果はやや弱いことも分かりました。つまり、「企業への帰属意識が高い」という要素だけでは十分ではなく、それに加えて企業が社員の期待を満たし、心理的契約を守ることがより重要であるということです。

したがって、企業は社員に対して魅力的なEVPを提供するだけでなく、企業との信頼関係(心理的契約)を構築・維持し、同時に企業のブランドイメージを高めて社員の帰属意識を強化することが求められます。

「ここで働き続けたい」と思ってもらうために

今回の調査から、企業が社員の定着意向を高めるためには単に報酬を増やすだけではなく、成長の機会を提供し、人間関係を良好に保つことが大切だと分かります。

また、社員との心理的契約を意識して、企業が社員の期待に応え続けることで、EVPの効果をさらに強められます。

例えば、定期的にキャリアアップの機会を設けたり、社員同士の交流イベントを開催することで、「ここで働き続けたい」と思ってもらうことができます。

さらに、自社のブランドイメージを向上させることで、社員の社会的アイデンティティを高めることも有効です。

参考文献
  • Asha Binu Raj. (2021).Impact of employee value proposition on employees’ intention to stay: moderating role of psychological contract and social identity.
著者プロフィール
カネコユウスケの顔写真
カネコユウスケ
マーケター / 経営コンサルタント
大手企業とスタートアップで業務部門やコンサルティングに従事した後、独立。現在はデジタルマーケティング、ウェブサイト・動画などによるオウンドメディア制作等を手掛ける。
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人事・組織論