2010年から2024年頃に生まれた人たちを「α世代(アルファ世代)」と呼びますが、マーケティングにおいてこの世代の重要性が増しています。
将来の顧客としてという意味ではありません。今現在の顧客として、そしてその親世代に影響を与える存在として重要ということです。
まず、今現在の顧客としてという意味においては、α世代は推し活やデジタルコンテンツなどに積極的にお金を使います。しかも少子化の影響もあり、両親、祖父母、叔父叔母と複数のスポンサーを持っています。この世代の購買力は侮れないのです。
そして、それ以上に重要なことは親の消費にも影響を与えているということです。α世代は、自分自身の消費に対してだけではなく、親の消費に対しても影響を与える家庭内インフルエンサーとしての役割を果たしているのです。
この背景には「逆社会化(reverse socialization)」という現象があります。
逆社会化とは
逆社会化とは、年少者や部下など本来教わる立場にある人が、年長者や上位者の思考・行動に影響を与え、学習させる社会化の過程(価値観・規範・行動様式を身につけていく過程)のことです。
例えば親は子供に対して、お店で買物をする方法を教えたりします。これは「親→子」という順方向の社会化のパターンです。
これに対し、子供が親にスマホの使い方を教えるのは「子→親」という逆方向の社会化のパターンです。これが逆社会化という現象です。
逆社会化は、子供のほうが新しい技術や、世の中のトレンドにいち早く触れるシチュエーションで起きやすくなります。これらの情報においては年齢の上下ではなく、どれだけその文脈に長く身を置いているかが信頼性のシグナルとなるからです。
親子間の逆社会化は、命令や対立として表れにくく、日常会話や選択の積み重ねの中で「教えてもらった」「参考になった」という形で進みます。それによって、親が無意識に判断基準を更新していきます。
つまり、当事者自身は社会化が逆転していることにほとんど気づかないのです。供給側の視点で見れば、親世代を知らないうちに説得することが可能ということです。
α世代とその親ほど逆社会化が起こりやすい理由
昔から親が子供にトレンドを教わるという形での逆社会化は起こっていましたが、α世代とその親の間ではより顕著となっています。
その理由には「今」を知るために必要なものが「知識量」から「文脈への接続度」に移っていることが関係しています。
α世代は、生まれたときからデジタル空間や社会的議論の内部にいます。動画やSNS、ゲーム、AIといった環境の中で、情報そのものだけでなく、「それがどのように受け取られているか」「今それを選ぶとどう見られるか」といった評価や空気感を含めて日常的に理解しています。(余談ですが「デジタルが前提」であるがゆえのα世代の内部者性は、「デジタルに慣れている」Z世代にもない感覚といえます)
一方で親世代は、必要なときに情報を検索するという行動パターンが多く、内容は理解できても、その背後にある文脈やタイミングまで把握しきれないことがあります。この差が、家庭内での発言の重みや判断の拠り所を、徐々に子供側へと移していくのです。
また、社会の変化が早いテーマにおいては、学校教育のほうが家庭よりも先行していることが多いです。環境問題やジェンダー、表現の適切さといった領域では、子供が学校で学んだ「今の基準」を家庭に持ち帰り、親がそれを参考にする関係が日常化しています。
このとき子供は、単に知識を伝える存在ではなく、親の判断基準を更新する役割を担うことになります。
これらの要因が重なった結果、α世代の家庭では「親が教え、子供が学ぶ」という前提が弱まり、親が判断に迷ったときに子供の感覚を参照することが合理的な行動となりやすいのです。
逆社会化をアルファ世代のマーケティングに活かす
逆社会化は、自然発生的に起きる現象ですから、マーケティング施策によって意図的に作り出すのは意外と難しいものです。
しかし、その構造を正しく理解すれば、企業側が親子間の対話を後押しする設計は可能です。
逆社会化を前提にしたマーケティング戦略の組み立てについて、コミュニケーション、プロダクト、メディアの観点から説明します。
コミュニケーション設計の視点
逆社会化を前提にしたコミュニケーション設計で重要なのは、子供を「説得役」にしないことです。子供が正しさや知識を盾に論破しようとすると、親に心理的な抵抗感を残しやすく、結果として商品やブランドそのものへの拒否感につながります。
そこで有効となるのが、子供が「学校で聞いたんだけど」「YouTubeでこんな話をしていたよ」と、雑談に近い形で共有できる情報の設計です。たとえば、環境配慮型の商品であれば、「これ、ゴミが減るらしいよ」というシンプルな一言から会話が始まり、親が「それってどういう仕組みなの?」と関心を持てる余地を残すことが重要なのです。
結論を押しつけるのではなく、一緒に考えるきっかけを提供することが、逆社会化を健全に機能させるポイントです。
プロダクト・サービス設計
親世代向けだけでなく、α世代向けの商品やサービスであっても、最終的な支払い判断や継続利用を決めるのはたいてい親です。そのため、プロダクト設計の段階から「家庭内でどう評価されるか」を前提に考えなければなりません。
子供向けのデバイスやオンラインサービスでは、機能の多さよりも「使える範囲が自然に制御されているか」が重要になります。利用時間の上限や利用履歴の可視化が初期設定として組み込まれていれば、親は管理する負担を感じにくくなります。
また、サブスクリプション型のサービスでは、「続ける理由」が体験の中で明確になる設計が効果的です。毎月新しい要素が追加されたり、進捗具合が可視化される仕組みは、子供にとって価値を実感しやすく、親にとっても継続の合理性を判断しやすくなります。
このように、子供が説明しなくても、使い方や価値が自然に伝わるプロダクト設計は、家庭内での信頼形成を支えます。結果として、親の納得感を前提とした継続利用につながり、ブランドとの安定した関係性を築く基盤となるのです。
メディア・チャネル戦略
逆社会化を前提としたメディア・チャネル戦略では、「広告を見せてすぐに買わせる」という導線は期待しにくいです。α世代向けの商品やサービスでは、広告に触れるのは子供であり、購買判断を行うのは親であるため、そこには時差が生まれます。
子供が動画やゲーム内で存在を知っても、その場で購入されることはほとんどありません。家庭内で話題に上り、親が別のデバイスで調べ直し、検討されるというプロセスを辿らなければならないのです。この流れを無視して、短期的なクリックやコンバージョンだけを求めても効果は得られません。
そのため、子供が接触するメディアと、親が確認する情報接点を意図的につなぐ設計が重要になります。子供向けのコンテンツでは存在や特徴が記憶に残れば十分であり、詳細な説明は親が検索した際にすぐ理解できる形で用意しておく必要があります。
家庭内の会話を起点とする以上、広告表現には後から説明しやすい要素を含めることも欠かせません。分かりやすいネーミングやビジュアル、使用シーンが想像できる表現は、会話を通じた情報伝達を助けます。
こうした設計は短期的な成果には表れにくいものの、中長期で信頼性の高い購買と継続利用につながるチャネル戦略と言えます。
成功と失敗を分けるポイント
逆社会化を活用したマーケティングは有効ですが、万能ではありません。
特に注意すべきことは、子供の影響力を過大評価してしまうことです。家庭によって親子関係のあり方は大きく異なり、すべての親が子供の意見を同じ重さで受け止めるわけではありません。
また、親の最終的な判断権を軽視する設計は、反発を招きやすくなります。親が「選ばされている」「操作されている」と感じた瞬間、逆社会化は機能しなくなります。特に、恐怖や罪悪感を刺激する訴求は、家庭内で否定的な感情を増幅させやすく、ブランドへの不信感につながるリスクが高まります。
逆社会化は、あくまで親子間に信頼関係が存在してこそ成立する現象です。マーケティングがその信頼を壊す方向に働いてしまえば、短期的な成果すら得られません。
逆社会化を活用して家庭内の対話を支える、くらいのスタンスが邪悪なマーケティングにならないためには丁度良いのかもしれません。

