LOWYA(ロウヤ)の「おくROOM」の成功と仮想的IKEA効果について

家具ブランド「LOWYA(ロウヤ)」のアプリ経由での売上が伸びている、という記事が日経に出ていました。

参考:LOWYAの9万円超ソファが爆売れ Apple Vision Proで自宅に「配置」

このアプリとは「おくROOM」と呼ばれるもので、自宅の間取りを読み込んで、実際に家具を配置したときのイメージを作成できるものです。

同様のアプリは他社にもありますが、「おくROOM」はその使い勝手の良さやイメージのしやすさにより、2024年のリリースから既に70万DLされ、そこから多くの購入がなされています。

この成功には家具の配置をリアルにイメージさせたことだけではなく、仮想的な「IKEA効果」も関係していると思います。

なぜVRは家具の販売に有効なのか

家具の販売において、VRは非常に有効なテクノロジーです。

従来のオンライン購入では、顧客が写真や寸法表だけを頼りに判断する必要がありました。そのため、実際に部屋に置いたときの印象やサイズ感を正確に想像することは困難でした。

しかし、VRを活用することで、自宅の空間を仮想的に再現し、その中に家具を配置して確認することが可能となります。色合いや形状が周囲のインテリアと調和するかどうかを事前に把握できるのです。その結果、購入後の「思っていたイメージと違う」といったミスマッチを減らすことができます。

特に「おくROOM」のような使い勝手の良さと、イメージのしやすさを兼ね備えたVRであれば、操作に不慣れな利用者であっても、購買意欲を高めることが可能となります。

また、LOWYA(ロウヤ)が顧客の購入体験をうまく設計していることも、販売につながっている要因といえます。

家具は単なる生活用品ではなく、自分自身のライフスタイルを彩る製品です。このような製品に対しては購入に至るまでのストーリー性も重視されます。このことは、一昔前に大塚家具がお家騒動によって顧客離れを起こしたことからも分かるかと思います。

LOWYA(ロウヤ)の「おくROOM」では、自分自身が作成した理想のレイアウトを投稿・共有する機能があり、イメージの確認だけで終わらせない体験が設計されています。そして最近では実店舗において、アップル・ビジョン・プロを使用して、自分の作成したレイアウトの空間内を体験できる取り組みも行っています。

顧客にこうした体験をさせることで、買物にストーリーが生まれ、購買意欲と購入後の満足度の向上につなげることができるのです。

仮想的な「IKEA効果」

LOWYA(ロウヤ)の「おくROOM」の成功要因として、仮想的な「IKEA効果」も関係しているといえます。

IKEA効果とは

IKEA効果とは、自分で手をかけて作り上げたものに対して、実際の出来栄え以上に高い価値を感じてしまう心理的な現象のことです。(由来は家具のIKEAです)

たとえば、家具を購入して自分で組み立てた場合、完成した家具に多少の不格好さがあったとしても、「自分で作った」という経験が加わることで、市販の完成品よりも愛着や満足感を強く抱きやすくなるのです。

この効果が生じる理由は、作業に費やした時間や労力がその対象への評価に影響を与えるためです。人間は努力を注いだものほど価値があると無意識に感じやすく、その過程に関わったという事実が達成感や所有意識を高めるのです。

その結果、同じ商品であっても、完成品を受け取るだけの場合と比べて、自分で組み立てたものの方をより大切に扱い、長く使おうとする心理が生まれます。

このように、「自分で関与すること」が価値認識に大きな影響を与えるのです。

自分のレイアウトには仮想的なIKEA効果が発生する

実はこのIKEA効果は物理的なもの以外にも発生します。そうです、「おくROOM」で作った自分のレイアウトに対しても発生するのです。

チューリッヒ工科大学のエルトゥールル・ウイサル博士らのVRを使った実験があります。

この実験では、参加者を2つのグループに分け、一方にはVR内で製品を観察させ、もう一方にはVR内で製品を組み立てる操作をさせました。

その後にその製品にいくらまでなら払うか聞き取ったところ、組み立てるグループの参加者のほうが、支払意思額の平均が高かったのです。

つまり「自分が努力して作ったものだから価値が高い」という、仮想的なIKEA効果が発生したということです。

この現象を「おくROOM」に当てはめて考えると、顧客は作成したレイアウトに対し、「自分が作ったもの」という心理的所有感を持ち、高い評価をするということです。

そして、そのレイアウトを構成しているのはLOWYA(ロウヤ)の家具ですから、他のブランドよりも高い評価を与え、購買意欲も高まるということです。

顧客は商品ではなく、購入前後の体験全体を買っている

LOWYA(ロウヤ)の取り組みは他の業種でも参考になるポイントが多いです。

まず、重要なこととして、「顧客は商品そのものではなく、購入前後の体験全体を買っている」という視点を持つことです。

人は分からないものにお金を払うことに不安を覚えます。サイズ感、雰囲気、使い勝手などが曖昧なままだと、「失敗したらどうしよう」という気持ちが勝ってしまい、購入してもらえません。

LOWYAの事例では、VRで自宅に置いた状態を見せることで、その不安をほぼ消しています。これは、他の業種でも同様の取り組みが可能です。たとえば不動産であれば入居後の生活イメージ、教育サービスであれば受講後の自分の変化、BtoBツールであれば導入後の業務の流れを、事前に見せることができます。

また、仮想的なIKEA効果の説明の通り、人は、自分が関わったものに対して強い愛着を持ちます。ですから顧客に少しでも手を動かさせ、価値の感じ方を変えることが有効です。

自分でレイアウトを作るという行為は、実際に家具を組み立てていなくても、「自分が作った」という感覚を生みます。この心理は、飲食店のオーダーカスタマイズ、ECサイトでのプラン作成、保険や旅行のシミュレーションなどにも応用できます。

さらに、「買う理由」を体験の中で自然に作ることも重要です。

ただ商品を並べるのではなく、「こういう暮らしをしたい」「こういう自分になりたい」というストーリーを、顧客自身に作らせなければなりません。人間は論理よりも感情で買います。その感情は、ストーリーを体験することで生まれます。これは、価格競争から抜け出したい業種にとって特に有効な考え方です。

お問い合わせはあるけれど、購入までしてもらえないという企業はもう一度、自社商品の見せ方と、顧客との関わり方を見直してみましょう。

参考文献
  • E Uysal, D Finken, et al. 2025Virtually mine: Understanding consumer responses to virtual reality product presentations
著者プロフィール
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カネコユウスケ
マーケター / 経営コンサルタント
大手企業とスタートアップで業務部門やコンサルティングに従事した後、独立。現在はデジタルマーケティング、ウェブサイト・動画などによるオウンドメディア制作等を手掛ける。
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