有名な都市伝説に「花王ショック」というものがあります。
花王がテレビCMをやめたけれど売上が落ちず、それどころか広告費がなくなったおかげで過去最高益を達し、それを見た他社も追随したせいで、広告費が貰えなくなった電通が怒って、花王のネガティブキャンペーンを行って、再びテレビCMを出させたというものです。
これは完全なデマですが、こちらのショックは本物のようです。今朝の日経新聞に「ネット広告に「楽天ショック」 AIで制作・運用、RIZAPは8割内製」という記事が出ていました。
インターネット広告の制作や運用を自社でやっている企業が増えているため、従来の広告会社の仕事が減っていくのではないかという内容です。オプトの調査によれば完全に内製化している企業は9.1%で、一部でも内製化している企業は51.2%あるそうです。
広告内製化の先駆けが楽天といわれており、それに他社も追従したことで「楽天ショック」と呼んでいるようです。拡散している言葉ではありませんが。
個人的な意見ですが、中小企業やスタートアップも広告の制作と運用は内製化したほうが良いと思います。
広告内製化のメリット
広告の制作と運用を内製化することのメリットとしてはまず、コスト削減が挙げられます。インターネット広告の運用を代理店に依頼すると、出稿した広告費の20%前後を手数料として取られることが多いです。
月に100万円分の広告を出すと、それにプラスした20万円の費用が掛かってしまうということです。これを自社での運用に切り替えれば、案件1件あたりの獲得単価を下げられたり、より多くの広告を出稿できるようになります。
また、現在のようにトレンドの移り変わりの早い時代においては、広告への反応が悪ければ即座に差し替えたり、調整したりする必要があります。代理店との打ち合わせが不要になればここの時間が短縮されますから、即応性が高まります。
そして何よりも大きなメリットは、自社の社員が直接的に反応を観察することで、市場の流れを肌感覚として掴みやすくなるということです。代理店からのレポートを見るのと、自分で運用して反応を見るのでは得られる感覚は全く違います。
自分が直接広告を出して、その反応を受けるからこそ分かる微妙な感覚というものがあるのです。これを自社の社員が持てるというのは、経営戦略の判断の質を高めるうえでも有効です。
なぜ広告代理店に依頼するのか?
広告運用を内製化することのメリットが大きいにも関わらず、なぜ多くの企業は代理店に任せているのでしょうか?
理由の一つは作業の難しさにあります。Google広告の管理画面を見たことのある人なら分かると思いますが、複雑で慣れていないと広告を1本出すのも一苦労です。
さらには消費者の行動データを取得するための設定や、レポートの構成も面倒臭いものです。これをGoogleだけではなく、他のSNS広告でも同じように管理しなければならないのです。なので多くの企業は、そんな手間を掛けるくらいなら外注してしまったほうが良いとなっているのです。
もっと大きな理由としてはクリエイティブ(広告画像や広告コピー)を制作できないことが挙げられます。商品画像やキャッチフレーズを作ることに関しては広告会社や代理店に一日の長があります。
広告会社の担当者も、いくらAIが進化したからといって人間と同じレベルのクリエイティブは作れないと言っていたりします。
しかし、実は既にAIの作る広告の方が効果が高いのではないかという研究もあるのです。
人間が制作した広告 vs. AIが制作した広告
人間が制作した広告と、AIが制作した広告のどちらが効果が高いのかを調べた、クイーンズランド大学のエゲラス・メゲラティ博士らの実験があります。
この実験ではまず、パーソナリティ特性に合わせた広告の制作能力を比較しました。
心理学実験で頻繁に用いられる性格の分類法に「ビッグ5」というものがあります。性格を5つのタイプに分けるものですが、今回はこの中の「開放性」と「神経症傾向」という2つのタイプをパーソナリティ特性のターゲットとして、それに合う広告を制作しました。
AIには「スマートフォンについて、開放性特性を持つ人々を対象とした広告文を書きなさい」といった命令を出しました。
AIは人間と同じレベルの広告文を作成できる
制作された広告を400名の被験者に提示し、商品についてどう思うか?欲しいと思うか?といったことを質問しました。
その結果、人間が作った広告文も、AIが作った広告文も、ターゲットとしたパーソナリティ特性を持つ人々からの評価に差は出ませんでした。
つまり、AIは人間と同じレベルの広告文を作成できるということです。
AIが制作した広告の方が好まれる
この実験では人間が作った広告とAIが作った広告を並べ、どちらが好まれやすいかということも調べています。
その結果は、人間が作った広告が40.9%に対し、AIが作った広告は59.1%と有意に選好されやすいことが分かりました。AIが勝ってしまったのです。
これは画像生成能力やトンマナ(デザインやスタイルの一貫性)を合わせる能力がAIの方が高いことが要因と考えられます。
また、「これはAIが作ったものだ」とバレたとしても、AIが作った広告のほうが好まれやすいことに変わりはありませんでした。
従来の研究ではAIが作ったと分かると、敬遠してしまう人が多いという結果もありましたが、これだけAIが普及した今の時代ではそういった感覚を持つ人も減っているのかもしれません。
若い世代ほどAIで作られた広告だと気づきやすいのですが、それに対する嫌悪感も若い世代ほど少ないことも分かっています。
大手企業の広告さえAIで作れるレベル
今回の実験で使われたのはOpenAIの「Chat GPT-3.5」です。今現在出ているのが、「GPT-5.2」ですから10世代ほど前のモデルということです。そのモデルでさえ人間に勝っているのです。
もちろん超一流のクリエイターの作るデザインや広告コピーに勝てるほどのものは、まだ作れないでしょう。
しかし、そんなハイレベルな人たちは広告会社の中でもごく一部しかいません。しかも、ほんの数社の大手一流企業の案件しか手掛けてはくれないでしょう。
私はJRや私鉄の駅の広告やポスターを良く見ます。広告会社からすれば鉄道会社は大切なクライアントです。しかし、そこに貼られている広告を見ても「AIでも作れるな」というレベルの画像と文言ばかりです。
つまりこのクラスの会社が掲出する広告さえ、AIで十分ということです。さらにいうなら、多くのインターネット広告の画像とコピーはもっと低レベルです。
ほとんどの会社はAIで十分ということです。仮にAIで不十分だとしても、それを超えるものを制作してくれるクリエイターはほとんどいないのですから、AIに頼らざるを得ないのです。
これを機に広告運用の内製化を検討してみてはいかがでしょうか?
コストが抑えられるだけでなく、自社の社員が直接的にユーザーの行動データを観察できるというのは、市場感覚を磨くうえでも非常に有効な方法となります。
ちなみにインターネット広告を出稿するための管理画面が複雑で分かりにくいと書きましたが、頻繁に使う機能は限られていますから、慣れればそれほど難しいことではありません。
広告運用を内製化することのデメリットがあるとしたら、広告運用は他社でも通用する汎用性のあるスキルであるがゆえに、担当した社員の転職できる可能性が高くなることくらいかと思います。
- E Meguellati, S Civelli, et al. (2025).LLM-Generated Ads: From Personalization Parity to Persuasion Superiority.

