フラット型の組織にすると女性応募者が減る理由

企業が採用活動を行う際に、「フラットな組織」であることをアピールすることがあります。

フラットな組織とは管理職の階層が少なく、社員同士が平等に意見を言いやすい環境を指します。

こうした特徴は自由で働きやすい職場環境を想像させ、多くの人を引きつけるように思えます。

しかし、採用サイト等でフラット型の組織であることをアピールすると、女性応募者を減らすことが調査で分かっています。

フラット型組織をアピールすると女性は応募しなくなる

「フラットな組織である」というアピールが、求職者にどのような影響を与えるのか調べた、メリーランド大学のルーベン・ハースト博士らの調査があります。

この調査では8,000人以上の求職者に対し、下記のどちらかのパターンの採用案内のメールをランダムに送りました。

  • 「フラットな組織」とアピールしたメール
  • 組織構造について触れていないメール

その後、それぞれの求職者が採用メール内のリンクをクリックしたか? さらに実際に応募まで至ったかを調べました。

その結果、「フラットな組織である」とアピールした場合、男性応募者には特に大きな影響を与えませんでしたが、女性応募者が減少することが分かりました。

具体的には「フラットな組織である」とアピールされたメールを受け取った女性が応募する割合は28%も減少したのです。

【関連】なぜベンチャーキャピタル(VC)の女性はパフォーマンスが低いのか?

なぜ女性はフラットな組織に応募しないのか?

なぜ女性はフラットな組織に応募しないのでしょうか?

それを確認するために、今回の実験ではアンケート調査を通じて、「フラットな組織」という言葉が求職者にどのように受け止められるかも聞き取っています。

8,000人以上の参加者に対して、「フラットな組織」や「管理職が多い組織」といった異なる組織構造についての説明を提供し、それぞれがどのような印象を持つかを尋ねたのです。

具体的にはフラットな組織がキャリアの進展、仕事量、職場の文化などにどのように影響すると感じるかを評価してもらいました。

この調査からは「フラットな組織」という表現に対して、男女間で認識に大きな違いがあることが明らかになりました。

特に女性はフラットな組織に対して以下のような懸念や否定的なイメージを抱いていたのです。

1.キャリア進展の機会が少ないと感じる

女性求職者の多くはフラットな組織において昇進のチャンスが限られていると感じています。

その背景にはフラットな組織が従来の階層型組織と比べて管理職のポジションが少ないことがあります。

管理職の数が限られているため、昇進を目指す競争が激化し、求職者が「自分が選ばれる可能性が低いのではないか」と考える傾向があるのです。

また、フラットな組織では明確なキャリアパスが提示されることが少なく、「この会社ではどのように昇進できるのかが分からない」と感じる女性も多い傾向がありました。

これらの要因から、女性はフラットな組織におけるキャリアの見通しに不安を覚え、応募をためらうのです。

2.仕事量が増えると予想する

フラットな組織では役職や上下関係が曖昧な場合が多く、明確な役割分担が定められていないケースがあります。

そのため求職者は「自分が想定以上の業務を担当しなければならないのでは?」という不安を持ちやすくなります。

特に女性求職者の間では「フラットな組織では仕事の割り振りが不均衡になり、自分がより多くのタスクを抱え込むのではないか」という懸念が強いことが明らかになっています。

この点も女性にとってフラットな組織を敬遠する要因の一つになっています。

3.組織文化に馴染みにくいと懸念する

フラットな組織は自由でフレンドリーな環境を目指していることが多いですが、その一方で、女性求職者は「フラットな組織が男性中心の文化、いわゆる「ブロカルチャー(※1)」に陥りやすいのではないか」と懸念しています。

この懸念にはフラットな組織ではルールや方針が曖昧であることが多く、個々人の影響力が強くなりがちな点が関係しています。

特に、既存の社員同士のつながりが強い場合、新しく加わる女性が孤立感を抱くことや、重要な意思決定の場に参加しにくい状況が生じやすいとされています。

さらに、フラットな組織では公式な管理体制が少ないために、従業員間の非公式なネットワークが重要な役割を果たす場合があります。

このような環境では男性社員同士で形成される「オールド・ボーイズ・ネットワーク」のような状況が発生しやすく、女性が不利な立場に置かれるリスクがあるのです。

こうした文化的な障壁が、女性にとってフラットな組織を「居心地の悪い場所」と感じさせる原因となっています。

※ブロカルチャー:男性中心の集団や環境で見られる文化や行動様式。競争心、自己主張、仲間意識が強調される一方で、排他的な態度や性差別的な言動が見られる。「Brother Culture」の短縮形。

このように、調査実験を通じて、「フラットな組織」という表現が女性応募者にとって魅力的に映るどころか、むしろ懸念や不安を抱かせる要因になりうることが明らかになりました。

企業が多様性を高めたい場合には組織のフラットさを強調する代わりに、キャリア進展の支援や役割分担の明確化、そして公平な職場環境の実現を目指していることをアピールする方が効果的かもしれません。

参考文献:Hurst, R., Lee, S. (R.), & Frake, J. (2024). The effect of flatter hierarchy on applicant pool gender diversity: Evidence from experiments.