従業員エンゲージメントが低いのは当たり前!高める方法はこれです

一代で会社を築き上げたオーナー社長が失敗する原因の一つに、従業員エンゲージメントを見誤ることが挙げられます。

ブラック企業といわれる会社が残業代の未払いや、高すぎる水準を要求して問題になりますが、それらのニュースを見るたびに「この会社の社長は従業員との感覚の違いを認識していないのだな」と思います。

もし、あなたがオーナー社長で、社員も自分と同じくらい会社と仕事が好きと考えているなら、その認識は改めたほうが良さそうです。

あなたの思っている半分も従業員は会社のことを思ってくれていないのです。

従業員エンゲージメントとは

社員に対して「もっとやる気を出してほしい」とか「会社のことを自分事と捉えてほしい」という願望を持つ経営者は多いです。

つまり「従業員エンゲージメント」を高めたいと思っているのです。

従業員エンゲージメントとは、会社に対する理解度や信頼度、貢献したいという気持ちを表す言葉です。

会社の目指す方向を理解し、それをするに足る会社だと思い、そのために自分も役に立とうとする気持ちです。

一言にまとめるなら「この素晴らしい会社で一生懸命働くぞ!」と、どれだけ思っているかということです。

オーナー社長なら誰でも、こういった気持ちを持ってもらいたいと思うものでしょう。

中には「そう思ってるのが当たり前なんじゃないの?」と考えている社長もいます。

しかし、その勘違いがブラック企業をつくるのです。

従業員エンゲージメントは低いのが当たり前

基本的に従業員エンゲージメントは、低いものと思っていたほうが良いです。

少なくとも、経営者が思っているほどには高くないのです。

自分の会社か他人の会社か

あなたがオーナー社長だった場合に、従業員も自分と同じくらいの熱量で会社の仕事に向き合っている、と考えているかもしれません。

しかし、その半分の熱量もないことがほとんどです。

自分の会社か他人の会社か、というのはそれくらい違うものなのです。

あなたにとって、会社は自分の子供のような存在ですが、従業員にとっては遠い親戚の子供くらいの感覚です。

これは脳レベルの話ともいえます。

起業家にとって会社はわが子も同然

ヘルシンキ大学が、起業家と父親を集めて行った興味深い実験があります。

この実験では、父親に自分の子供と、知っている子供の写真を見せました。

起業家には、自分の会社と、知っている他社の写真を見せました。

そして、MRIでそれぞれの脳活動を調べました。

すると、父親が自分の子供の写真を見たときは後帯状皮質、側頭頭頂接合部、背内側前頭前野の働きが抑制されることが分かりました。(他人の子ではそうならなかった)

ここは自他の区別や、「心の理論」と言われる相手の意図を読む能力に関係する部位を含む領域です。(別の実験では母親でも同じ反応が起こることが分かっています)

そしてなんと、自分の会社に愛着を持っていると答えた起業家でも、これと同じ反応が見られたのです。

起業家が自分の会社を見たとき、実の子を見たときと同じ反応を示したのです。他社を見たとき、このような反応は起こりませんでした。

つまり、起業家にとって「会社はわが子も同然」というのは、決して大げさな表現ではないのです。

無意識に「従業員も同じ感覚だろう」と期待してしまっている

この実験からも、社長であるあなたが会社に対して持っている情熱が特別なものだと分かったと思います。

あなたは自分の会社の成長のためなら、どんな苦労も厭わないでしょう。命に代えてでも守りたいと思っているかもしれません。

そのような感覚を持っているので、無意識のうちに自社の従業員も同じ感覚だろう、と期待してしまっているのです。バイアスが掛かっているともいえます。

自分ほどでないにしても、従業員はみんな会社に愛着を持っているし、会社の成功を強く望んでいるはずだと考えているのです。

しかし、この考え方は間違っています。

株式も裁量も持っていない従業員は会社にコミットしていない

あなたの会社の従業員は、あなたほどに仕事で何かを成し遂げようと思っていませんし、会社のことを自分事として捉えてはいないのです。

従業員エンゲージメントは、あなたが思っているほど高くはないのです。

一緒に会社を創業し、株式の持ち分もある役員であれば、エンゲージメントは高いかもしれません。

株式を持っていなくとも、幹部として事業を自由に動かせる立場であれば、会社を自分の一部のように考える人もいるでしょう。

しかし、株式も裁量も持っていない一般の従業員は、そこまで会社にコミットしていないのです。

「自分が独立前にサラリーマンだったときは従業員エンゲージメントは高かった」

ここまでの説明をしても、納得しない起業家は多いと思います。

「自分が独立前にサラリーマンだったときは従業員エンゲージメントは高かった」と思う人間もいるでしょう。

それは当然です。起業するような人間は、仕事に対するモチベーションが高いのですから。

しかし、世の中ではそちらの方が少数派ということを忘れないでください。

まずは「従業員エンゲージメントは低いのが当たり前」という意識を持つことから始めましょう。

そして、自社にいるエンゲージメントの高い社員を大切にするべきです。彼らは起業家予備軍の可能性が高いのです。

従業員エンゲージメントを高めるには?

では、従業員エンゲージメントを高めるには、どうすれば良いでしょうか?

社長がビジョンや夢を語っても、それほど効果はありません。むしろ、その手の話で上がったモチベーションは下がるのも早いです。

また、社内競争をさせることも逆効果になるリスクがあるので要注意です。

自分のものだと思わせる

従業員エンゲージメントを高めるには、そのビジネスが自分のものだと思わせれば良いのです。

とはいっても、株を持たせろということではありません。初期メンバーであっても、株を持たせると後で自分の首を絞めることになりかねないので、あまりおすすめしません。

そこでどうするかといえば、プロジェクト単位で任せてしまうことです。子会社の社長にしても良いですし、新規事業の責任者にしても良いです。

任せたら、最終的にこれらくらいの利益が欲しい、ということだけ伝えて、社長はあくまで後ろ盾となるだけで良いのです。

完全な裁量を持たされたら、たとえ株式を所有していなくとも自分事と捉えるので、エンゲージメントは一気に高まるのです。

「それをできるのは自分しかいない」という認識を持たせる

しかし、子会社の社長や事業責任者というポジションには限りがあります。それに全員に適性があるわけでもありません。

そこでより汎用性のある手段としては、小さな役割でも良いので「それをできるのは自分しかいない」という認識を持たせることです。

そう思わせるためには、社長や上司が「そのことに期待している」という態度を示すことです。

人間は小さな仕事でも「期待されている」と認識すると、それに応えようという熱意が生まれるものなのです。

ペイパルマフィアのドンとして有名な、ピーター・ティールが次のように言っています。

「いい企業には、ある人がやらなかったら、他の誰も代わりにやることはできないという特殊な任務があります。きみがそれをしなかったら、それは実現しない――これがペイパルのビジョンでした」

ペイパルのような、天才が集まっていた集団の話は参考にならないかもしれませんが、それぞれのメンバーが自分の役割を持っている組織は、総じてモチベーションが高いものです。

ピザを差し入れる

給料を上げたら、従業員エンゲージメントが高まると期待する社長もいるかもしれません。

しかし、給料を上げるという手段は企業経営において、あまりおすすめしません。

一時的に喜ぶことはありますが、そのポジティブな感覚は長続きしないからです。

特に現代は、ほとんどの会社が給料を銀行振込にしています。そのため、給与明細の数字が増えるだけの視覚効果しかありません。中には明細を見ない人もいます。

給料アップよりも、ピザの差し入れのほうが従業員の満足度は高まるという研究もあるので、お金をあげるくらいなら食べ物を差し入れるべきです。

それを皆で食べたという体験もできますから、共同体としてのつながりも強まり、従業員エンゲージメントも高まりやすいです。それに金銭的なコストも小さく済みます。

給料を上げると「金さえあげとけば満足するとでも思ってやがる」と誤解されるリスクがありますが、食べ物を差し入れたら「社員を大事にしているんだ」と思ってもらえる可能性が高いのです。

つまり、食べ物を与えることが大切なのではなく、社員に「社長は自分たちを心から大切にしてくれている」と思ってもらうことが大切なのです。

「何をやるかよりも誰とやるかが大事」

ここまで、従業員エンゲージメントの高め方について説明してきましたが、必ずしも効果があるとは限りません。

中には何をやってもダメな社員というのはいます。能力が低いだけではなく、反抗的であったり、とにかくやる気のない社員というのはどこにでもいるのです。

ですから、時には人を切るという判断も起業家には必要です。日本の法律では簡単に解雇できませんが…。

反対に、何もしなくても従業員エンゲージメントの高い社員も少ないですが存在はします。

元も子もない話ですが、最初からそういう社員を採用するよう心がけましょう。

「社長の最も大切な仕事は採用」と言っても過言ではありません。他の仕事を部下に任せても良いですが、採用だけは絶対に自分でやりましょう。

「何をやるかよりも誰とやるかが大事」というのは多くの起業家が言っていることです。