珍しい名前の社長ほどユニークな経営戦略を取るという分析結果

東京商工リサーチの調査によると、社長に多い名前は「誠」だそうです。次いで「博」。

理由はシンプルで、社長になるような年代の日本人にこれらの名前が多いからです。

なので、「誠」が社長になりやすい名前かどうかは不明といえます。「誠」よりも「太郎」のほうが、社長の率で言ったら高い可能性もあります。

というよりも、珍しい名前の社長もけっこう多いと思わないでしょうか?

社長に限らず、芸術や学術、スポーツの世界で成功している人には、珍しい名前が多いように思います。

国民全体に占める珍しい名前の割合より、成功者に占める珍しい名前の割合のほうが高いように見えます。

これに関しては、いくつかの心理学研究によって、裏付けられているのですが、珍しい名前の人は、自分は特別な人間であるという信念を持ちやすいことが理由とされています。

子供時代から注目されることで、「自分はその他大勢とは違う」という感覚を持ちやすく、それが独創性や自信につながり、本当に成功するということです。

この傾向はビジネスにも見られます。珍しい名前の社長ほど、ユニークな経営戦略を打ち出す可能性が高いのです。

社長の名前と経営戦略の関係

社長(CEO)の名前と経営戦略の関係を分析した、アリゾナ州立大学ビジネススクールのユング・カンらの研究があります。

この研究では、1998年から2016年までの19年間にわたる、米国上場企業のデータから1,172社を抽出し、社長の名前と経営戦略のユニークさを分析しました。

社長の名前の珍しさは、米国社会保障庁(SSA)の提供するファーストネームの出現頻度データを用いて定量化されています。出現頻度が低いほど、その名前を「珍しい」とみなします。

経営戦略のユニークさは、財務データをもとに測定しています。具体的には、広告費率、在庫水準、設備の新しさ、研究開発費率、一般管理費率、財務レバレッジといった6つの指標について、同一業界内の平均値との差を算出し、その乖離を「ユニークさ」としました。

珍しい名前の社長ほどユニークな経営戦略を採用

分析の結果、社長の名前が珍しいほど、その企業の財務データが、業界平均と乖離している傾向にあることが分かりました。

つまり、珍しい名前の社長がいる会社ほど、ユニークな経営戦略を採用している可能性が高いということです。

具体的には、社長の名前の珍しさが標準偏差1分上昇すると、経営戦略の独自性は約4.2%高まるという結果が得られています。

社長が自信を持っているとより傾向が強まる

今回の研究では、社長の自信も測定しています。これは、期限を迎えているストックオプションを、行使せずに保有し続けているか等の指標から、算出しています。

なぜ、これが社長の自信と関係するかというと、ストックオプションを行使しないということは、将来的に会社の価値はもっと上がるので、そのときまで待っていたほうが得と考えていることの証だからです。つまり、自分の力でさらに会社の価値を上げられるという自信の表れといえます。

そして社長の自信が高い場合、名前の珍しさと経営戦略のユニークさの関係は48%強化されることが分かりました。

「自分は特別な存在なのだ」という思考が、経営判断にも影響を及ぼしている可能性が高いということです。

珍しい名前の社長ほど、ユニークな経営戦略を採用する理由

なぜ珍しい名前の社長ほど、ユニークな経営戦略を採用するのでしょうか?

その背景には、心理学でいう「関係的自己(relational self)」があります。これは他者との関係の中で自分をどう認識するかを表す心の一面です

人は名前を通して、他人との違いを意識するようになります。特に珍しい名前を持つ人は、幼い頃から周囲に「特別な存在」「個性的」と見られる経験を繰り返し、自分を「他人とは違う存在」として認識しやすくなる傾向があります。

このような自己認識は、大人になってからも影響を与えます。とりわけ社長のような自信に満ちた立場にある人々は、自分の「違い」をビジネス上でも表現しようとする傾向が強まります。

つまり、自分を他者と異なる存在と見なすことで、業界の常識や慣例にとらわれない戦略を選びやすくなるのです。

さらに、珍しい名前を持つ人は、親から「他人とは違う特別な存在」として育てられていることが多く、そうした家庭環境や教育法も「他者とは違う道を選ぶ」価値観を育む一因となります。

このような背景が積み重なることで、珍しい名前の社長は、他社とは異なる独自性の高い戦略を取りやすくなるのです。

社名は「ア」で始まる名前を選ぶと有利

余談ですが、名前そのものが職業選択に影響を与えるという研究もあります。

例えば、Denis(デニス)という名前の人は、Dentist(歯科医)になる可能性が他の名前よりも高いという統計データがあります。

ちなみにこの研究をした大学教授の名前はRichard Wisemanです。Wisemanは「賢人」という意味ですから、小さなころから、自分は賢いと思っていたので、大学教授にまでなれたのかもしれません。

さらに余談ですが、社名を決めるときは「ア」で始まる名前をおすすめします。

なぜなら、人間はたとえ「五十音順で並んだリストです」と言われていても、上に表示されているものを良いものと無意識に評価するバイアスを持っているからです。

業界団体の名簿などに掲載されるときに有利です。

参考文献:
・株式会社東京商工リサーチ. 『2014年「全国社長 姓名」調査』
・Kang, Y., Zhu, D. H., & Zhang, Y. A. (2021). Being extraordinary: How CEOs’ uncommon names explain strategic distinctiveness.