企業が成功するためには従業員のやる気を引き出し、業績を上げることが重要です。
そのために多くの企業は従業員の待遇や働き方を改善するための「人事政策」を工夫しています。
しかし、同じ人事政策を導入しても、支店や部署によって成果に差が出ることがあります。
その原因は職場ごとの独自の内部要因が従業員の態度や業績を大きく左右するからです。
支店固有の要因が業績を決める?3700人を対象にした調査の結果
経済学者のアン・バーテルらが、ニューヨーク周辺にある大手銀行の193の支店を対象に行った調査があります。
調査対象となった従業員は約3700人で、「職場環境や仕事に対する満足度」「チームワークやコミュニケーションの質」「上司への信頼感」「支店内の雰囲気」などに関するアンケートが行われました。
アンケートには106の質問が含まれており、各質問に対して1(最も否定的な回答)から5(最も肯定的な回答)の5段階で答えてもらいました。
さらに、アンケートだけでなく、各支店の売上データや業績の指標も収集しました。
具体的には支店ごとの年間の「預金や貸付金の総額」やその増減率が業績を示す指標として使われました。
また、従業員の属性データも収集されました。これには従業員の平均年齢、勤続年数、職位(役職レベル)などが含まれています。
これらの情報をもとに、支店ごとに「従業員の態度」と「業績」の違いを比較し、それらの間にどのような関係があるのかを分析しました。
この研究から、以下のことが明らかになりました。
1. 支店ごとに従業員の態度が有意に異なる
支店ごとに従業員の職場に対する態度に明確な違いが見られました。
例えば、ある支店では従業員の多くが「職場に満足している」と答えていたのに対し、別の支店では「職場環境に不満を感じている」という回答が多数を占めていました。
これは偶然、その支店にそのような人材が集まっているからではないことが統計的に明らかになっています。
態度の違いは単なる偶然ではなく、支店ごとに存在する独自の環境や雰囲気、リーダーシップの違いなど「支店固有の要因」が影響していると考えられます。
支店内の雰囲気や管理の仕方が態度に直接影響しているのです。
2. 新しく入った従業員もその支店の雰囲気に影響される
もう1つ注目すべき点は新たに移動してきた従業員が、その支店の既存の従業員と似た態度を持つようになるという現象です。
他の支店から来た人は当初、異なる考え方や態度を持っています。
しかし、同じ支店で働くうちに、その支店の雰囲気や働き方に影響され、既存の従業員と似た態度を示すようになることが分かりました。
これは「職場の文化」や「職場内の人間関係」が新しく来た従業員に強く影響を与えていることを示しています。
特に、支店長や上司のリーダーシップ、職場内でのコミュニケーションの質、同僚同士の協力関係などが、新しく来た従業員態度に影響を与える重要な要素であると考えられます。
また、入社して1年未満の従業員はまだ支店の雰囲気に完全には馴染んでいないため、既存の従業員と異なる態度を示すこともありました。
しかし、2年目になる頃には既存の従業員とほぼ同じ態度を持つようになることが確認されました。
このことから、支店の雰囲気や働き方が長期的に新規従業員を同化させる力を持っていることが分かります。
3. 従業員の態度が支店の業績にも影響する
さらに、この研究では従業員の態度が支店の業績にも密接に関係していることが確認されました。
具体的には従業員の態度が良い支店は売上が高く、逆に従業員の態度が悪い支店は売上が伸び悩む傾向がありました。
また、調査期間中にいくつかの支店が閉鎖されましたが、閉鎖された支店は従業員の態度が一貫して悪い傾向にあったことも分かりました。
従業員の態度が良い支店は顧客との関係が良好であり、売上を伸ばしやすい一方、態度が悪い支店では顧客対応や業務の効率が悪くなり、結果として業績が悪化し、閉鎖のリスクが高まると考えられます。
ただし、注意すべき点として、短期間での態度の変化が業績に直接影響を与えるわけではないということです。
調査によると、業績に影響を与えるのは長期間にわたって維持される「支店固有の要因」による態度の違いです。
つまり、支店ごとの内部要因が業績を左右しており、一時的な態度の変化だけでは大きな影響は見られないことが分かりました。
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各職場の独自の課題に目を向けることが重要
この研究から、「同じ人事政策を導入しても、職場ごとの内部要因によって成果が異なる」ということが分かりました。
企業が全体として良い成果を上げるためには人事政策を統一するだけではなく、各職場の独自の課題に目を向けることが必要です。
例えば、支店長のリーダーシップを強化したり、職場の雰囲気を改善する取り組みが有効かもしれません。
このような工夫をすることで、職場ごとの課題を乗り越え、より良い成果を生むことができるでしょう。
参考文献:Ann P. Bartel, Richard B. Freeman, et al. (2011). Can a workplace have an attitude problem? Workplace effects on employee attitudes and organizational performance.
